・・・それもあとで聞いたので、小県がぞッとするまで、不思議に不快を感じたのも、赤い闖入者が、再び合掌して席へ着き、近々と顔を合せてからの事であった。樹から湧こうが、葉から降ろうが、四人の赤い子供を連れた、その意匠、右の趣向の、ちんどん屋……と奥筋・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・あ、この幽艶清雅な境へ、凄まじい闖入者! と見ると、ぬめりとした長い面が、およそ一尺ばかり、左右へ、いぶりを振って、ひゅっひゅっと水を捌いて、真横に私たちの方へ切って来る。鰌か、鯉か、鮒か、鯰か、と思うのが、二人とも立って不意に顔を見合わせ・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
亜米利加の排日案通過が反動団体のヤッキ運動となって、その傍杖が帝国ホテルのダンス場の剣舞隊闖入となった。ダンスに夢中になってる善男善女が刃引の鈍刀に脅かされて、ホテルのダンス場は一時暫らく閉鎖された。今では余熱が冷めてホテルのダンス場・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・物騒な代の富家大家は、家の内に上り下りを多くしたものであるが、それは勝手知らぬ者の潜入闖入を不利ならしむる設けであった。 幾間かを通って遂に物音一ツさせず奥深く進んだ。未だ灯火を見ないが、やがてフーンと好い香がした。沈では無いが、外国の・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・おまえは二十七日の晩ファゼーロと連れだって村の園遊会へ闖入したなあ。」「闖入というわけではありませんでした。明るくていろいろの音がしますので行って見たのです。」「それからどうした。」「それからわたくしどもが酒を呑まんと云いますと・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・へ闖入して来た。 そして大きな斧が容赦なく片端しから振われ始めたのである。 まだ生れて間もない、細くしなやかな稚木共は、一打ちの斧で、体じゅうを痛々しく震わせながら、音も立てずに倒れて行く。 思いがけない異変に驚く間もあらばこそ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫