・・・では、その大事を未然に防ぐには、どうしたら、いいであろうか。この点になると、宇左衛門は林右衛門ほど明瞭な、意見を持っていないようであった。恐らく彼は、神明の加護と自分の赤誠とで、修理の逆上の鎮まるように祈るよりほかは、なかったのであろう。・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・目口に吹込む粉雪に、ばッと背を向けて、そのたびに、風と反対の方へ真俯向けになって防ぐのであります。こういう時は、その粉雪を、地ぐるみ煽立てますので、下からも吹上げ、左右からも吹捲くって、よく言うことですけれども、面の向けようがないのです。・・・ 泉鏡花 「雪霊記事」
・・・が、――諺に、火事の折から土蔵の焼けるのを防ぐのに、大盥に満々と水を湛え、蝋燭に灯を点じたのをその中に立てて目塗をすると、壁を透して煙が裡へ漲っても、火気を呼ばないで安全だと言う。……火をもって火を制するのだそうである。 ここに女優たち・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・石工が入って、鑿で滑にして、狡鼠を防ぐには、何より、石の扉をしめて祭りました。海で拾い上げたのが巳の日だった処から、巳の日様。――しかし弁財天の御縁日だというので、やがて、皆が。――巳の時様、とそう云っているのでございます。朝に晩に、聞いて・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・若しこれらの信者が、本当に正義の観念に燃え、真理のために尽していたなら、今度の欧洲戦争の如きも未然に防ぐことが出来たであろう。またロシアの饑饉に対し、オーストリー・ハンガリーの饑饉に対し、若しくは戦後のドイツに対して世界人類の取るべき手段は・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・ 自身攻撃されるのを防ぐために、有名人を攻撃するという、いわば相手の武器をとって、これを逆用するにも似た、そんなやり口を見て、おれは、さすがに考えやがったと思ったが、しかし、その攻撃文に「国士川那子丹造」という署名があるのを見て、正直な・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それは豪雨のために氾濫する虞れのある溪の水を防ぐためで、溪ぎわへ出る一つの出口がある切りで、その浴場に地下牢のような感じを与えるのに成功していた。 何年か前まではこの温泉もほんの茅葺屋根の吹き曝しの温泉で、桜の花も散り込んで来たし、溪の・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・ 一同は寒気を防ぐために盛んに焼火をして猟師を待っているとしばらくしてなの字浦の方からたくましい猟犬が十頭ばかり現われてその後に引き続いて六人の猟師が異様な衣裳で登って来る、これこそほんとの山賊らしかった。 その鉄砲は旧式で粗末なも・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
今日の社会状態において、婦人を家庭へ閉じこめて、社会の生活戦線における職業に進出することを防ぐことは不可能である。このことはたとい理想的社会が実現されたる暁においても、当為としての法則として、婦人の就職を妨げるいわれはない・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・それは、そんなのを防ぐためだろうが、内地米と外米をすっかり混合してしまって配達するのである。鶏に呉れてやる女には、これはよいことだが、一週間に一度だけ内地米を食って息をついていた子供らにはこれはなか/\慰められないおお事である。・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
出典:青空文庫