・・・これは豪雨のときに氾濫する虞れの多い溪の水からこの温泉を守る防壁で、片側はその壁、片側は崖の壁で、その上に人々が衣服を脱いだり一服したりする三十畳敷くらいの木造建築がとりつけてあった。そしてこれが村の人達の共同の所有になっているセコノタキ温・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・一方の力は、日本を防壁として確立させるために一層積極の方法を押しすすめはじめた。それに反して、労働者階級は、そして民主的な人々は、中国の解放を、アジアの民主勢力の決定的なプラスと見たのは正当であり、世界民主勢力のより一歩の勝利と見たのも正当・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ バクー名所の一つである九世紀頃のアラビア人の防壁を見物して、磨滅した荒い石段々を弾む足どりでイラ草の茎を片手にもって降りて来たら、わきの共同便所の前から十一二歳の少年の一団がやって来る。見ると真中の一人が、便所へおとしたその糞だらけの・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・第一次大戦のあとのヨーロッパ社会が急テムポで社会主義的に進んでゆくことに危惧を感じ、その防壁としてドイツのナチスを支援し、成長を助けることが得策であるとした国外の人々は、間違えてふたをあけた壺からあばれ出した暴力を、民主的な理性と良心とによ・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ある国にとって、一つの国が平和の防壁として存在するということの現実もそれと全く同じだと思う。日本のわたしたちは、何を欲しているだろう。平和そのものを自分たちの運命の上に欲していると信じる。そうだとすれば、わたしたちは、日本語を正確に、目的の・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫