・・・がかつて右翼陣営の言論人として自他共に許し、さかんに御用論説の筆を取っていた新聞の論説委員がにわかに自由主義の看板をかついで、恥としない現象も、不愉快であった。 だが、私たちはもはや欺されないであろう。私たちの頭が戦争呆けをしていない限・・・ 織田作之助 「終戦前後」
農民文学に対する、プロレタリア文学運動の陣営内における関心は、最近、次第にたかまってきている。日本プロレタリア作家同盟では、農民文学に対する特殊な研究会が持たれた。ハリコフでの国際革命作家拡大プレナムの決議は日本のプロレタ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・あんな運動をして、毎日追われてくらしていて、ふと、こちらの陣営に、思いがけない旧友の顔を見つけたときほど、うれしいことがございませぬ。 ――よく、つかまらなかったね。 ――ばかだから、つかまるのです。また、つかまっても、一週間やそこ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・砲煙弾雨の中に身命を賭して敵の陣営に突撃するのもたしかに貴い日本魂であるが、○国や△国よりも強い天然の強敵に対して平生から国民一致協力して適当な科学的対策を講ずるのもまた現代にふさわしい大和魂の進化の一相として期待してしかるべきことではない・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・そして彼らの上官たちは、頭に羽毛のついた帽子を被り、陣営の中で阿片を吸っていた。永遠に、怠惰に、眠たげに北方の馬市場を夢の中で漂泊いながら。 原田重吉が、ふいに夢の中へ跳び込んで来た。それで彼らのヴィジョンが破れ、悠々たる無限の時間が、・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・この饑餓陣営の中に於きましては最早私共の運命は定まってあります。戦争の為にでなく飢餓の為に全滅するばかりであります。かの巨大なるバナナン軍団のただ十六人の生存者われわれもまた死ぬばかりであります。この際私が将軍の勲章とエボレットとを盗みこれ・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・戦争中は少尉や中尉で、はためにいい気持そうに威張って何年も軍隊生活にいた人が、きょうは民主陣営の先頭に立って、同じように何の疑問もなく「おくれた大衆」という。それはどういう日本の特徴なのだろうかと思って。 進歩性の問題は、ツルゲーネフが・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・この当時の状態をよむ人は計らず太宰治の生涯と文学とに対して、民主主義文学の陣営から、含蓄にとみながらその歴史性を明確にした批評が出ることの意外にすくなかったことを思い合わされはしないだろうか。 当時小説の神様のように眺められていた横光利・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 世界の階級闘争がひろい文化戦線にわたって激化されるようになってから、敵の陣営=ブルジョアを攻撃し、笑殺する武器としてのプロレタリア諷刺は、弁証法的な形で扱われるようになって来た。 対手の悪と醜とを暴露し、やっつけるぎりの消極的諷刺・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・林房雄や須井一などが一応プロレタリア文学の陣営に属すように見えつつ、実質においては非プロレタリア的な作品を量において多量生産し、しかもそれがブルジョア・ジャーナリズムにおいてもてはやされているのに対して、われわれが一々それを作品によって覆す・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
出典:青空文庫