・・・下の方に大きな白い陸地が見えて来る。それはみんながちがちの氷なんだ。向うの方は灰のようなけむりのような白いものがぼんやりかかってよくわからない。それは氷の霧なんだ。ただその霧のところどころから尖ったまっ黒な岩があちこち朝の海の船のように顔を・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・云ったかと思うとタネリはもうしっかり犬神に両足をつかまれてちょぼんと立ち、陸地はずんずんうしろの方へ行ってしまって自分は青いくらい波の上を走って行くのでした。その遠ざかって行く陸地に小さな人の影が五つ六つうごき一人は両手を高くあげてまるで気・・・ 宮沢賢治 「サガレンと八月」
・・・ やがて自動車での陸地の跋渉がはじまって、初めて女性は自分の体力と智力とによって地球を平面的にわがものとするに到った。 女性が飛行機を操縦する時代になっていることは今世紀の人類的な飛躍の姿であると思う。より一層の体力とより一層の科学・・・ 宮本百合子 「空に咲く花」
・・・十七世紀の新陸地発見時代のイスパニアの貨幣にはジブラルタルの図案が鋳出されている下に Plus ultraと刻まれていたと、この著者は語っている。この本は、今日の歴史のものに対する、私たちの健全な愛着と奮闘心とを呼びさます熱量をはらんでいる・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・アメリカの文学、ソヴェトの文学、どれも文体そのものの血肉の中に大きい陸地の上に生きて歴史を営んでいる人間の或る感じの特徴を脈うたせているという感銘は誰にとっても否定し得まいと思う。 このことも何となし心にのこされている事柄の一つである。・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
出典:青空文庫