・・・そして今は、偽札が西伯利亜の曠野を際涯もなく流れ拡まって行っていた。………… 黒島伝治 「穴」
・・・天下は広い、年月は際涯無い。しかし誰一人おれが今ここで談す話を虚言だとも真実だとも云い得る者があるものか、そうしてまたおれが苦しい思いをした事を善いとも悪いとも判断してくれるものが有るものか。ただ一人遺っていた太郎坊は二人の間の秘密をも悉し・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・排イテ進メバ則白雲ノ湧スルガ如ク、杳トシテ際涯ヲ見ズ。低回スルコト頃クニシテ肌骨皆香シク、人ヲシテ蒼仙ニ化セシメントス。既ニシテタ陽林梢ニアリ、落霞飛鳧、垂柳疎松ノ間ニ閃閃タリ。長流ハ滾滾トシテ潮ハ満チ石ハ鳴ル。西ニ芙蓉ヲ仰ゲバ突兀万仞。東・・・ 永井荷風 「向嶋」
出典:青空文庫