・・・けれどもこのなぞなぞはむずかしく、隣村の森を通り抜けても御城下町へたどりついても、また津軽の国ざかいを過ぎてもなかなかに解決がつかないのであった。 ちなみに太郎の仙術の奥義は、懐手して柱か塀によりかかりぼんやり立ったままで、面白くない、・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・二日目の日が暮れてから帰って来た。隣村の茶店まで来た時そこには大勢が立ち塞って居るのを見た。隣村もマチであった。唄う声と三味線とが家の内から聞えて来る。彼はすぐに瞽女が泊ったのだと知った。大勢の後から爪先を立てて覗いて見ると釣ランプの下で白・・・ 長塚節 「太十と其犬」
学者安心論 店子いわく、向長屋の家主は大量なれども、我が大家の如きは古今無類の不通ものなりと。区長いわく、隣村の小前はいずれも従順なれども、我が区内の者はとかくに心得方よろしからず、と。主人は以前の婢僕を誉め、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 隣村のかなりの百姓で、甚さんと云う家がある。そこの息子に、去年嫁をもらった。 評判の美人で、男の気には大層入って居たけれ共、病的に「やきもち」のひどい姑が、二人で一部屋に居させないほどにして居た。 そうすると、先達ってうちから・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・随分長い間、今小学校の校長の居る処に住んで居て、畑や米の世話をして居たが、気の勝った年寄の召使と主人とは、しばしば衝突が起って、しばらく東京の家の方へ来て居た事もあったけれ共、今は、隣村とこの村の境のどっちともつかない様な処へ息子からの「あ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 父がまた旅に立ってしばらくしたある日、私は母につれられ隣村へ行った。沢山な人が私のいったその家に集っていて、大皿や鉢に、牛蒡や人参や、鱈や、里芋などの煮つめたものが盛ってある間を、大きな肩の老人が担がれたまま、箱の中へ傾けて入れられる・・・ 横光利一 「洋灯」
・・・ホオルンベエクと云う隣村の牧師です。やはりわたしと同じように無妻で暮しています。それから余り附合をしないことも同様です。年越の晩には、極まって来ますが、その外の晩にも、冬になるとちょいちょい来て一しょにトッジイを飲んで話して行きます。」・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫