・・・複雑なる主義に、たとえば、政治に、経済に、既成の哲学に、依拠し、隷属しなければならぬとするごときは迷蒙である。こうしたことによって何等か、感激を呼び起した場合がなかったと言わない。しかし、いまは、この重圧のために、空想を、想像を、拘束されて・・・ 小川未明 「単純化は唯一の武器だ」
・・・多くの人間は、動物を人類に隷属するものの如く考えて来た。しかし造物主は、人間の食用のためにし、玩賞のためにし、また使役するためにせんと、創造したものではなかったでしょう。もし、かく思うならば、誤信にすぎないのであります。なぜなら、彼等は、自・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・人間は、善美の理想に向って、克己奮闘する時こそ、進歩も向上も見られるけれど、雷同し、隷属化された時は、自分自身の行くべき道すら見失うものであります。 人生の進路も、生活の形態も、一元的に決定することはできないであろう。故に、一つの主義が・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・その泥棒に隷属している「植民地の住民は牛か馬のように扱われる。彼等は、種々様々な方法によって搾取される。資本輸出、租借、商品販売の場合の欺瞞、支配的国民の下に隷従させらるゝこと等によって。」 資本家は、国内の労働者から搾取した利潤以外に・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・日に十里を楽々と走破しうる健脚を有し、獅子をも斃す白光鋭利の牙を持ちながら、懶惰無頼の腐りはてたいやしい根性をはばからず発揮し、一片の矜持なく、てもなく人間界に屈服し、隷属し、同族互いに敵視して、顔つきあわせると吠えあい、噛みあい、もって人・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・からはすべて女性の力にすがらなければ世の中が自滅するだろうという事、その女性のかしらは私自身で、私は実は女神だという事、男の子が三人あって、この三人の子だけは、女神のおかげで衰弱せず、これからも女性に隷属する事なく、男性と女性の融和を図り、・・・ 太宰治 「女神」
・・・ただちょっと御断りをしておきたいのは、この四種は名前の示すごとく四種であって互にそれ相当の主張を有して、文芸の理想となっているものでありますから、甲をもって乙に隷属すべき理由はどうしても発見できんのであります。この四つのうちに、重要の度から・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・世界が連合国憲章をつくって、真から戦争とファシズムに反対し、一つの民族によって隷属させられる条件を否定している現代の歴史の中で、男と女は互の隷属から解放され、人間の仲間としての両性として生きられるように協力しようとしている。男と女を人民とい・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ アジアの近代の歴史は、苦しい隷属とそこから解放されようとする闘いの連続でした。印度をはじめとするアジアの諸国は、そのゆたかな天然の資源と、生産の発達が遅れている半封建的社会の条件を利用されて、ヨーロッパの資本主義の植民地または半植民地・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・の問題として、階級対立の社会にあっては支配階級のイデオロギーの侵害を多く受けているものであり、特に日本のように封建性の重いきずなが男女を圧しているところでは、女の性的受動性、男に対する自主的な選択権が隷属的に考えられる習俗をもっているのであ・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
出典:青空文庫