・・・しかも、一たび神様となるや、その権威は絶対であって、片言隻句ことごとく神聖視されて、敗戦後各分野で権威や神聖への疑義が提出されているのに、文壇の権威は少しも疑われていないのは、何たる怠慢であろうか。フランスのように多くの古典を伝統として持っ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・若き頃、世にも興ある驕児たりいまごろは、人喜ばす片言隻句だも言えずさながら、老猿愛らしさ一つも無し人の気に逆らうまじと黙し居れば老いぼれの敗北者よと指さされもの言えば黙れ、これ、恥を知れよと袖をひかれ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・よろしきところに住み、戦災に遭ったという話も聞かぬから、手織りのいい紬なども着ているだろう、おまけに自身が肺病とか何とか不吉な病気も持っていないだろうし、訪問客はみな上品、先生、先生と言って、彼の一言隻句にも感服し、なごやかな空気が一杯で、・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫