・・・隊はいつか松樹山の麓の、集合地へ着いているのだった。そこにはもうカアキイ服に、古めかしい襷をあやどった、各師団の兵が集まっている、――彼に声をかけたのも、そう云う連中の一人だった。その兵は石に腰をかけながら、うっすり流れ出した朝日の光に、片・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・自分は駅員の集合してる所に到って、かねて避難している乳牛を引上げるについてここより本所停車場までの線路の通行を許してくれと乞うた。駅員らは何か話合うていたらしく、自分の切願に一顧をくれるものも無く、挨拶もせぬ。 いかがでしょうか、物の十・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・ やがて、ラッパが鳴り響いた。集合、整列、そして出発だ。Sは背嚢を肩にした。ラッパの勇しい響きと同時に、到るところで、××君万歳の声が渦をまいて、雨空に割込むように高く挙った。その声は暫く止まなかった。整列、点呼が終った。またしてもラッ・・・ 織田作之助 「面会」
・・・るわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀なるある海軍中佐の語るには、 わが艦隊が明治二十七年の天長節を祝したのは、あたかも陸兵の華園口上陸を保護するため、ベカ島の陰に集合していた時である。その日の事であった・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・夜中の二時頃、俺が集合場に馳せつけると、志願兵上りの少尉が見つけてガミガミ云う。「みな、一時に集まって、任務についているんですぞ!」「一体、どういう状勢なんですか?」俺は、ワクワクしていた。「そんなこと、訊ねなくッてよろしい! 命令・・・ 黒島伝治 「防備隊」
・・・「このごろでは、解析学の始めに集合論を述べる習慣があります。これについても、不審があります。たとえば、絶対収斂の場合、昔は順序に無関係に和が定るという意味に用いられていました。それに対して条件的という語がある。今では、絶対値の級数が収斂・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・それまでに、駅前に集合して、すぐ出発だそうです。」「いま何時だ。」君の愚かな先生は、この十五、六年間、時計というものを持った事が無い。時計をきらいなのでは無く、時計のほうでこの先生をきらいらしいのである。時計に限らず、たいていの家財は、・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・と弟妹たちに報告して歩いて、皆を客間に集合させた。祖父も、にやにや笑いながら、やって来た。やがて祖母も、末弟に無理矢理、ひっぱられてやって来た。母と、さとは客間に火鉢を用意するやら、お茶、お菓子、昼食がわりのサンドイッチ、祖父のウイスキイな・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ユダヤ民族を集合して国土を立てようというザイオニズムの主張者としてさもありそうな事である。桑木理学博士がかつて彼をベルンに尋ねた時に、東洋は東洋で別種の文化が発達しているのは面白いといったような事を話したそうである。この点でも彼は一種のレラ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・何の関係もない色々の工場で製造された種々の物品がさまざまの道を通ってある家の紙屑籠で一度集合した後に、また他の家から来た屑と混合して製紙場の槽から流れ出すまでの径路に、どれほどの複雑な世相が纏綿していたか、こう一枚の浅草紙になってしまった今・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
出典:青空文庫