・・・あの行衛知れずになった犬というはポインターとブルテリヤの醜い処を搗交ぜたような下等雑種であって、『平凡』にある通りに誰の目にも余り見っとも好くない厭な犬であった。『平凡』では棄てられてクンクン鳴いていた犬の子を拾って育て上げたように書いてあ・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・大きな枝を張った木陰のベンチに人相の悪い雑種のマライ人が三人何かコソコソ話し合っていた。 市場へ行く。玉ねぎや馬鈴薯に交じって椰子の実やじゃぼん、それから獣肉も干し魚もある。八百屋がバイオリンを鳴らしている。菓汁の飲料を売る水屋の小僧も・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 然るに当夜観客の邦人中には市中の旅館に宿泊して居る人ででもあるのか、平袖の貸浴衣に羽織も着ず裾をまくり上げて団扇で脛をあおいでいる者もあり、又西洋人の中には植民地に於てのみ見受けられる雑種児にして、其風采容貌の欧洲本土に在っては決して・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・さらに今日常識が遺伝についてある程度の知識を求めているからにはメンデルの「雑種植物の研究」も、決して身に遠い著作ではないと思う。 このように遺伝の作用をも内にはらむ人間の生命の生物としての構成の微妙さを私たちに知らせるのは生理学であろう・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・そう云う花壇に植え込まれる大部分の花、――雑種で、ジョウンジアとかスヌクシアとでも云いそうに仰々しい名前の――は私の眼を傷める。」〔一九二四年四月〕 宮本百合子 「素朴な庭」
・・・ 一層、足袋をはいた足許にまといつくし、頸環もこわれているし、ブルドッグの雑種らしいところもあるし、私は遂に、「じゃあお泊り」と云った、風呂から上ったばかりであったが、私はミルクを振舞われた犬を引いて、茶の間の裏へ廻った。ラジオ・・・ 宮本百合子 「蓮花図」
出典:青空文庫