・・・難解「太初に言あり。言は神と偕にあり。言は神なりき。この言は太初に神とともに在り。万の物これに由りて成り、成りたる物に一つとして之によらで成りたるはなし。之に生命あり。この生命は人の光なりき。光は暗黒に照る。而して暗黒は之を・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・あの先生、口髭をはやしていやがるけど、あの口髭の趣味は難解だ。うん、どだいあの野郎には、趣味が無いのかも知れん。うん、そうだ、評論家というものには、趣味が無い、したがって嫌悪も無い。僕も、そうかも知れん。なさけなし。しかし、口髭……。口髭を・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・そのおかげで私は電車の中で難解の書物をゆっくり落ち付いて読みふける事ができる。宅にいれば子供や老人という代表的田舎者がいるので困るが、電車の中ばかりは全く閑静である。このような静かさは到底田舎では得られない静かさである。静か過ぎてあまりにさ・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・ ニイチェの著書は、おそらく人間の書いた書物の中で、最も深遠で、且つ最も難解なものの一つであらう。その深遠な理由は、思想が人間性の苦悩の底へ、無限に深くもぐりこんで抜けないほどに根を持つて居るのと、多岐多様の複雑した命題が、至るとこ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ゆえにそれは、どんなに馬鹿げていても、難解でも必ず心の深部において万人の共通である。卑怯な成人たちに畢竟不可解なだけである。四 これは田園の新鮮な産物である。われらは田園の風と光の中からつややかな果実や、青い蔬菜といっしょにこれらの・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・彼は長い間の難解な問題が思わずここに釈然とした思いがした」ところが、この作品のヒューマニズムの帰結なのである。「あらくれ」に同じ作者によって書かれている自分の家系の物語、愛子物語をあわせ読むと、舟橋氏のヒューマニズムが一般人間性の観・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫