・・・ ところがその後元宰先生に会うと、先生は翁に張氏の家には、大癡の秋山図があるばかりか、沈石田の雨夜止宿図や自寿図のような傑作も、残っているということを告げました。「前にお話するのを忘れたが、この二つは秋山図同様、※苑の奇観とも言うべ・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・浦の雨夜の茶話は今も心に残っているが、それよりも、婆さんの潮風に黒ずんだ顔よりも、垣の山吹よりも深く心に沁み込んで忘られぬものが一つある。 宿の裏門を出て土堤へ上り、右に折れると松原のはずれに一際大きい黒松が、潮風に吹き曲げられた梢を垂・・・ 寺田寅彦 「嵐」
・・・一つは雨夜の仮の宿で、毛布一枚の障壁を隔てて男女の主人公が舌戦を交える場面、もう一つは結婚式の祭壇に近づきながら肝心の花嫁の父親が花嫁に眼前の結婚解消をすすめる場面である。 婦人の観客は実にうれしそうに笑っていたようである。こういうアメ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・源氏物語の「雨夜のしなさだめ」は、婦人の一生をみる点で紫式部がリアリストであったということを証明している。当時の貴族社会の男の典型として紫式部は光君を書こうとした。今日からみれば、とりとめない放縦な感情生活のなかにも、なお失われない人間性と・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ならなかったか、又そこから脱出しようとして、それぞれの才智に応じて、いろいろと進歩の機会を捉える工面をして、せめてその関係に安定のある配偶を見つけようとし、或は宮廷に入ろうと努力した姿は、源氏物語の「雨夜のしなさだめ」にも窺われる。 藤・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫