・・・ する事も、いう事も、かりそめながら、懐紙の九ツの坊さんで、力およばず、うつくしいばけものの、雪おんな、雪女郎の、……手も袖もまだ見ない、膚であいた室である。 一室――ここへ入ってからの第二の……第三の妖は……………………昭和八・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・私は尚も言葉をつづけて、私、考えますに葛の葉の如く、この雪女郎のお嫁が懐妊し、そのお腹をいためて生んだ子があったとしたなら、そうして子供が成長して、雪の降る季節になれば、雪の野山、母をあこがれ歩くものとしたなら、この物語、世界の人、ことごと・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ その他にもたとえば「雪女郎」の絵のあるページの片すみに「マツオオリヒシグ」としるしたり、また「平家蟹」の絵の横に「カゲノゴトクツキマタウ」と書いて、あとで「マタウ」のタを消してトに訂正してあったりするのをしみじみ見ていると、当時におけ・・・ 寺田寅彦 「小泉八雲秘稿画本「妖魔詩話」」
出典:青空文庫