・・・ 保吉は長ながと足をのばし、ぼんやり窓の外の雪景色を眺めた。この物理の教官室は二階の隅に当っているため、体操器械のあるグラウンドや、グラウンドの向うの並松や、そのまた向うの赤煉瓦の建物を一目に見渡すのも容易だった。海も――海は建物と建物・・・ 芥川竜之介 「寒さ」
・・・何でも淀屋辰五郎は、この松の雪景色を眺めるために、四抱えにも余る大木をわざわざ庭へ引かせたそうです。 芥川竜之介 「仙人」
・・・およそ二十枚くらい画いて来たのだが、仙之助氏には、その中でもこの小さい雪景色の画だけが、ちょっと気にいっていたので、他の二十枚程の画は、すぐに画商に手渡しても、その一枚だけは手許に残して、アトリエの壁に掛けて置いた。勝治は平気でそれを持ち出・・・ 太宰治 「花火」
・・・この美しい雪景色を、お嫂さんに持って行ってあげよう。スルメなんかより、どんなによいお土産か知れやしない。たべものなんかにこだわるのは、いやしい事だ。本当に、はずかしい事だ。 人間の眼玉は、風景をたくわえる事が出来ると、いつか兄さんが教え・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・つまりはヘレン・ケラーが雪景色を描き、秋の自然の色彩を叙すると同じではあるまいか。 ここまで考えたが、事によるとこの最後の比較は間違っているかもしれないと思う。もう一度始めから考え直してみる必要がある。しかしもしこれが当を得ているとした・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・ そう云えば、すぐ隣りにある山下氏の絵にもやはり東洋人が顔を出している。雪景色の絵などはどこか広重の版画の或るものと共通な趣を出している。 津田君の小品ではこの東洋人がむき出しに顔を出している訳である。 坂本氏の絵がかなり目・・・ 寺田寅彦 「二科会その他」
・・・四季の風景のうちで、最も美しいのはこの雪景色であるかもしれない。 しかしこの美しさは、せいぜい午前十時ごろまでしか持たない。小枝の上にたまった雪などは非常に崩れやすく、ちょっとした風や、少しの間の日光で、すぐだめになってしまう。枝の上の・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫