・・・屋根の裏に白い牙をむいた鎌が或は電気を誘うたのであったろうか、小屋は雷火に焼けたのである。小屋に火の附いた時はもう太十は何等の苦痛もなく死んで居た筈である。たった一人野らに居た一剋者の太十はこうして僅かの間に彼の精神力は消耗した。更に大自然・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ 茫然たるアーサーは雷火に打たれたる唖の如く、わが前に立てる人――地を抽き出でし巌とばかり立てる人――を見守る。口を開けるはギニヴィアである。「罪ありと我を誣いるか。何をあかしに、何の罪を数えんとはする。詐りは天も照覧あれ」と繊き手・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・魂の抜け殼が「大水に攫われるとか、雷火に打たれるとか、猛烈で一息な死に方がしたいんですもの」と云ったりするであろうか。 和歌の浦の暴風のなかでそのような言葉を嫂からきいて、二郎は、自分がこの時始めて女というものをまだ研究していないことを・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
出典:青空文庫