・・・また大地震で家がつぶれ、道路が裂けて水道が噴出したり、切断した電線が盛んにショートしてスパークするという見ていて非常に危険な光景を映し出して、その中で電話工夫を活躍させている。それからまた犯人と目星をつけた女の居所を捜すのに電話番号簿を片端・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・上田から長野へ電線で送られた唱歌が長野局から電波で放送され、それがエーテルを伝わってもとの上田の発源地へ帰って来ているのである。何でもない当り前の事であるが、ちょっと変な気のするものである。 あとで新聞を見たら、この地で七十年ぶりという・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ 道路に沿うて頭の上を電線が走っている。それにたくさんのとんぼが止まっているが、それがみんなだいたい東を向いている。ステッキのとんぼが最初に止まったのと同じ向きである。 夕日がもう低く傾いていて、とんぼはみんなそれに尻を向けているの・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 高圧電線の支柱の所まで来ると、川から直角に掘り込んで来た小さな溝渠があった。これに沿うて二条のトロのレールが敷いてあって、二三町隔てた電車通りの神社のわきに通じている。溝渠の向こう側には小規模の鉄工場らしいものの廃墟がある。長い間雨ざ・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・また江戸以前のこの辺の景色も想像されるのであった。電線がかたまりこんがらがって道を塞ぎ焼けた電車の骸骨が立往生していた。土蔵もみんな焼け、所々煉瓦塀の残骸が交じっている。焦げた樹木の梢がそのまま真白に灰をかぶっているのもある。明神前の交番と・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・各種の動力を運ぶ電線やパイプやが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されているありさまは高等動物の神経や血管と同様である。その神経や血管の一か所に故障が起こればその影響はたちまち全体に波及するであろう。今度の暴風で畿内地方の電・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・これが降ると道路はもちろん樹木の枝でも電線でも透明な氷で蔽われるために、道路の往来は困難になり電線の被害も多い。蝙蝠傘の上などに落ちて凍った雨滴を見ると、それが傘の面に衝突して八方に砕け散った飛沫がそのままの形に氷になっている。 凍雨と・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・往来の上に縦横の網目を張っている電線が透明な冬の空の眺望を目まぐるしく妨げている。昨日あたり山から伐出して来たといわぬばかりの生々しい丸太の電柱が、どうかすると向うの見えぬほど遠慮会釈もなく突立っている。その上に意匠の技術を無視した色のわる・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・ 電線の鳴る音を先立てて、やがて電車が来る。洋服の男が二人かけ寄って、ともどもに電車に乗り込む。洲崎大門前の終点に来るまで、電車の窓に映るものは電柱につけた電燈ばかりなので、車から降りると、町の燈火のあかるさと蓄音機のさわがしさは驚くば・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・装置には三日、サンムトリ市の発電所から、電線を引いてくるには五日かかるな。」 技師はしばらく指を折って考えていましたが、やがて安心したようにまたしずかに言いました。「とにかくブドリ君。一つ茶をわかして飲もうではないか。あんまりいい景・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
出典:青空文庫