・・・シオンの山の凱歌を千年の後に反響さすような熱と喜びのこもった女声高音が内陣から堂内を震動さして響き亘った。会衆は蠱惑されて聞き惚れていた。底の底から清められ深められたクララの心は、露ばかりの愛のあらわれにも嵐のように感動した。花の間に顔を伏・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ 天地震動、瓦落ち、石崩れ、壁落つる、血煙の裡に、一樹が我に返った時は、もう屋根の中へ屋根がめり込んだ、目の下に、その物干が挫げた三徳のごとくになって――あの辺も火は疾かった――燃え上っていたそうである。 これ――十二年九月一日・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ほかの坑道にいた坑夫達がドエライ震動と、轟音にびっくりして馳せつけたのだ。彼等も蒼白になっていた。 井村は新しいカンテラでホッとよみがえった気がした。今まで、鉱車や、坑木に蹲った坑夫や、女達や、その食い終った空の弁当箱などがあったその上・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・もっとも某先生の助力があったという事も聞いて居ますが、西洋臭いものの割には言葉遣などもよくこなれていて、而して従来のやり方とは全然違った手振足取を示した事は少からぬ震動を世に与えて居りました。勿論あれが同じあのようなものにしても生硬粗雑で言・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・ そのために東京、横浜、横須賀以下、東京湾の入口に近い千葉県の海岸、京浜間、相模の海岸、それから、伊豆の、相模なだに対面した海岸全たいから箱根地方へかけて、少くて四寸以上のゆれ巾、六寸の波動の大震動が来たのです。それが手引となって、東京・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・者、いかにその精神、吝嗇卑小になりつつあるか、一升の配給酒の瓶に十五等分の目盛を附し、毎日、きっちり一目盛ずつ飲み、たまに度を過して二目盛飲んだ時には、すなわち一目盛分の水を埋合せ、瓶を横ざまに抱えて震動を与え、酒と水、両者の化合醗酵を企て・・・ 太宰治 「禁酒の心」
・・・ごったがえしの、天地震動の大騒ぎ。否。人の世の最も切なき阿修羅の姿だ。 十九世紀のヨオロッパの文豪たちも、幼くしてこの絵を見せられ、こわき説明を聞かされたにちがいない。「われを売る者、この中にひとりあり。」キリストはそう呟いて、かれ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・また五分くらいすると不意に思い出したように一陣の風がどうっと吹きつけてしばらくは家鳴り震動する、またぴたりと止む、するとまた雨の音と川瀬のせせらぎとが新たな感覚をもって枕に迫って来る。 高い上空を吹いている烈風が峰に当って渦流をつくる。・・・ 寺田寅彦 「雨の上高地」
・・・また終わりに諏訪湖の神渡りの音響の事を引き、孕のジャンは「何か微妙な地の震動に関したことではあるまいか」と述べておられる。 私は幼時近所の老人からたびたびこれと同様な話を聞かされた。そしてもし記憶の誤りでなければ、このジャンの音響ととも・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・地震計の震動体にメルデ実験に相当する作用のあるのが見逃されているのに気付いて、これを無くする考案をしたりした。また多数の共鳴体を並列して地震動を分析する装置を考案し実際の地震の観測に使用してかなり面白い結果を得た。また構造物の模型実験が従来・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫