・・・「息吹きかえす霍乱の針」「顔に物着てうたたねの月」「いさ心跡なき金のつかい道」等にはなんらか晴れやかに明るいホルンか何かの調子があるに対して「つたい道には丸太ころばす」「足軽の子守している八つ下がり」その他には少なくも調子の上でどことなく重・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・母親が霍乱で夜明まで持つまいと申すことでござります。どうぞ格別の思召でお暇を下さって、一目お逢わせ下さるようにと、そう云うのだ。急げ」「は」と云って、文吉は錦町の方角へ駆け出した。 酒井亀之進の邸では、今宵奥のひけが遅くて、りよ・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・虎列拉には三種ありて、一を亜細亜虎列拉といい、一を欧羅巴虎列拉といい、一を霍乱という、此病には「バチルレン」というものありて、華氏百度の熱にて死す云々。これはペツテンコオフエルが疫癘学、コツホが細菌学を倒すに足りぬべし。また恙の虫の事語りて・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫