・・・或る時一緒に散策して某々知人を番町に尋ねた帰るさに靖国神社近くで夕景となったから、何処かで夕飯を喰おうというと、この近辺には喰うような家がないといって容易に承知しない。それから馬場を通り抜け、九段を下りて神保町をブラブラし、時刻は最う八時を・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・自分を死んだものとして無責任に片づけ、而も如何にも儀式ばった形式で英霊の帰還だとか靖国神社への合祀だとか、心からその人の死を哀しむ親や兄弟或いは妻子までを、喪服を着せて動員し、在郷軍人は列をつくり、天皇の親拝と大きく写真まで撮られたその自分・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 先達って靖国神社のお祭りの時は、二万人ほどの人々が上京したそうでした。電車の中にも省線のなかにも胸にしるしをつけた老若男女の姿があって、古風な紋付羽織を着たお父さんにつれられて、赤ちゃんを抱いた黒紋付の若い女のひとの姿などは、特に人々・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
出典:青空文庫