・・・としての非情に就いても、ちょっと考えてみることに致しましょう。この男ひとりに限らず、芸術家というものは、その腹中に、どうしても死なぬ虫を一匹持っていて、最大の悲劇をも冷酷の眼で平気で観察しているものだ、と前回に於いても、前々回に於いても非難・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 私は極貧の家に生れながら、農民の事を書いた小説などには、どうしても親しめず、かえって世の中から傲慢、非情、無思想、独善などと言われて攻撃されていたあなたの作品ばかりを読んで来ました。農民を軽蔑しているのではありません。むしろ、その逆で・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ただ事がらが非情の物質と、それに関する抽象的な概念の関係に属するために、明白な陳套な語で言い現わされるような感情の動揺を感じることはないであろうが、真なるものを把握することの喜びには、別に変わりはないであろう。 それだのに文学と科学とい・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・文学の才能だけは、アルコールの中毒くさかったり、病理的な非情のするどさでもてはやされたりする畸型的な面白がられかたは、文学そのものの恥だと思う。若い作家三島由紀夫の才能の豊かさ、するどさが一九四九年の概括の中にふれられていた。この能才な青年・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫