・・・ 赤ちゃんを背中から膝の上にだきとり、さもなければ牧子のように一人わきに坐らせて、もう一人はおなかの中で今育てているというようなひとも幾人か加っている一同は、全く云われるとおりという面持で応えた。「日本の男は婦人たちをもっと、しんか・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・胸の迫った面持である。可愛ゆさ、安心、悦びが、一時にぐっとこみあげ、涙となろうとするのを、危うくも止めた表情である。 自分はそれを見、正視するに耐えなかった。眼を逸し、さりげなく「安積から来た柿?」と、まつに話しかけた。「そ・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・この本をナイチンゲールから寄贈されたジョン・ステュアート・ミルが、この本を手にした労働者と同様に、彼女の理屈はよく納得されないといった時、四十歳に達していたフロレンスはさも意外な面持であった。 社会における「悪の起源」は神が完全であるか・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・居合わせた人々は、不愉快な面持で、精神的な問題だよ、と云った。東洋精神独特の美の感覚なのだから、とつよい語調で云った。それだけでは、益々理解が混雑する様子であった。封建時代の日本人がその社会生活から慣習づけられていた感情抑制の必要、美の内攻・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・彼は藍子のかけている待合室のベンチの腕木にちょっと斜かいに腰かけ、片肱にステッキをかけ、派手な箱から一本その金口をぬき、さも旅立ちの前らしい面持ちで四辺を眺めながら火をつけた。 尾世川は数日前にやっと、不二子を九州の夫のところへ向けて立・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫