・・・第一革命以来一度もないことだ。」 年とった支那人は怒ったと見え、ぶるぶる手のペンを震わせている。「とにかく早く返してやり給え。」「君は――ええ、忍野君ですね。ちょっと待って下さいよ。」 二十前後の支那人は新らたに厚い帳簿をひ・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・その小説の主人公は革命的精神に燃え立った、ある英吉利語の教師である。こうこつの名の高い彼の頸はいかなる権威にも屈することを知らない。ただし前後にたった一度、ある顔馴染みのお嬢さんへうっかりお時儀をしてしまったことがある。お嬢さんは背は低い方・・・ 芥川竜之介 「お時儀」
・・・そしてそこから一つの革命が成就されるかもしれない。しかしそんなものが起こったら、私はその革命の本質を疑わずにはいられない。仏国革命が民衆のための革命として勃発したにもかかわらず、ルーソーやヴォルテールなどの思想が縁になって起こった革命であっ・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・そして彼はその生活革命の後ろに何を期待したか。確かにそれは人間の文化の再建である。人々間の精神的交渉の復活である。なぜなら、彼は精神生活が、物的環境の変化の後に更生するのを主張する人であるから。結局唯物史観の源頭たるマルクス自身の始めの要求・・・ 有島武郎 「想片」
・・・それらの人々に同情するということは、畢竟私自身の自己革命の一部分であったにすぎない。もちろん自分がそういう詩を作ろうという気持になったこともなかった。「僕も口語詩を作る」といったようなことは幾度もいった。しかしそういう時は、「もし詩を作るな・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 生活の革命……八人の児女を両肩に負うてる自分の生活の革命を考うる事となっては、胸中まず悲惨の気に閉塞されてしまう。 残余の財を取纏めて、一家の生命を筆硯に托そうかと考えて見た。汝は安心してその決行ができるかと問うて見る。自分の心は・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・維新の革命で江戸の洗練された文化は田舎侍の跋扈するままに荒され、江戸特有の遊里情調もまた根底から破壊されて殺風景なただの人肉市場となってしまった。蓄妾もまた、勝誇った田舎侍が分捕物の一つとして扱ったから、昔の江戸の武家のお部屋や町家の囲女の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・世界を震撼した仏国革命も正味は六七年間である。千七百八十九年の抑々の初めから革命終って拿破烈翁に統一せられた果が、竟にウワータールーの敗北に到るまでを数えても二十六年である。米国の独立戦争もレキシントンから巴黎条約までが七年間である。如何な・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ご承知の通りカーライルが書いたもののなかで一番有名なものはフランス革命の歴史でございます。それである歴史家がいうたに「イギリス人の書いたもので歴史的の叙事、ものを説き明した文体からいえば、カーライルの『フランス革命史』がたぶん一番といっても・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・レエルモントフのコウカサスに於ける、薄倖の革命詩人、レヴィートフの中央ロシヤの平原に於けるそれであった。 彼等は、この広い天地に、曾て、自分を虐遇したとはいえ、少年時代を其処に送った郷土程、懐かしいものを漂浪の間に見出さなかった事である・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
出典:青空文庫