・・・亀のチャーリーは相もかわらず貧乏で冬じゅう何も食わぬ二匹の亀の子とボロ靴下を乾したニューヨークの小部屋では五セントの鱈の頭を食って暮しているがピオニイルはゾクゾク殖えてゆくという物語を、五章からなるエピソード的構成で書いているのである。・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ ドミトリーは、室の天井からぶら下っている洗濯物の中から自分のシャツや靴下をひっぱりおろして、新聞紙へ包んだ。書類鞄へガサガサと机の上のものをさらいこんだ。 戸が開いた。そしてしまった。 暫くして、ナースチャがそっとグラフィーラ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・そういう女の甘さや感傷が、自身は暖い炉辺で慰問靴下をあみつつ、美食家のエネルギーで戦線の英雄的行動をしゃべり、スリルを味っている女たちに対する憎悪とともに、どのくらい深刻に思慮ある男、現実の艱苦の中にある男の感情を索漠とさせるものであるか。・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・芝居行の靴下をはき、オカッパの上へセルロイド櫛をさした若い細君が、時々気にしては新しい藤色フランス縮緬の襟飾に手をやりながら、紺のトルストフカの亭主によりそって四辺を見まわしつつ散歩している。“905”日本女の受けとった外套防寒靴預番号・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ しかし今日のわたしたちの生活にはまず電力節減、燃料不足などという、極めて原始的な困難から始って、温い冬の靴下がないという困難にまで及んでいます。どんな人でもくさくさすればそこから自分の心持を紛らすことを望みます。どんな若い人が自分の青・・・ 宮本百合子 「自覚について」
・・・ けれども、その犠牲の様式化され、装飾化されさえしたような美の形式にかかわらず、男一人に女五人の割というフランスで、夕方華やかな装いで街の女が歩きはじめる並木道の一重裏の通りを、黒い木綿の靴下をはいた勤労の女たちが、疲労の刻まれた顔で群・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・例えば、皆さんが高い靴下を買いますが、それをただ眺め、なるべく長く保つようにと詩をつくってもだめです。それより最初に一ぺん水につけるとか、ソックスをはくとかすることで、現実にいくらかでもその靴下の寿命がのばせる。その何かすることが大切だと思・・・ 宮本百合子 「人生を愛しましょう」
・・・淳朴な感情には、民族的偏見というものがなくて、文明的な先進国として、資本主義国の文化にたいするものめずらしさや、判断を加えることを遠慮する感情があった、最も単純な列として、女のひとたちのフランス白粉や靴下への愛好があったように。生産技術の面・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・寿江子の靴下プランタンへ買いにゆくやぶれたのをはいて 伸子 マッフラー止め二ケ 手帖 スエ子靴下 マデレーヌのうしろの店でトーモロコシを買う8F 四本で電車でかえる。日没美しいcaf を一・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
・・・Yの靴下から、服、ケープの肩のところまで、泥の飛沫が一杯ついている。Y、つかつか床几の処へ行った。「何した」「――」「こんな悪戯する奴があるか」 悪童は、すっぱりと一つ喰らわされた。Yの洋装に田舎の子らしい反感を持ったのと、・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫