・・・またある人は比較的情を働かす意識の連続をもって生活の内容としたいと云う理想からとうとう文士とか、画家とか、音楽家になってしまいます。またある人は意志を多く働かし得る意識の連続を希望する結果百姓になったり、車引になったり――これはたんとないか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・近衛秀麿氏が今度それを改作する由、お蝶夫人が歌手で、ピンカートンである音楽家が京都へ演奏旅行をして、最後は、お蝶がヨーロッパへ演奏に行ってその音楽家と出会いハッピーエンドになるように改作するのだそうである。映画はこの筋を既につかい古している・・・ 宮本百合子 「雨の小やみ」
光ちゃんのお父さん小野宮吉さんは、お亡りになったから、この写真にうつることは出来ません。けれども、鑑子さんは母として音楽家として生活と芸術とのために実に勤勉に一心に毎日を暮し、光ちゃんも益々いい少女として成長している一家の・・・ 宮本百合子 「いい家庭の又の姿」
・・・ ほとんど夜中まで広場中に鳴り渡った華やかな音楽は、ソヴェト音楽家達のメーデーである。 例年作家団体は、デモに参加して数十万の勤労者とともに赤い広場でスターリンの激励の言葉に向って、歓呼の声をあげる。 五月二日はいわば一日の疲れ・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・それに音楽というもの、音の不断の刺戟というものが人間の頭脳に生理学の上からどう影響するものか、非常に研究されるべき神経学、心理学のテーマがあるとも思われます。音楽家の精神内容には、舞台に立つ者として俳優などと共通の古い伝統の感情のほかに、何・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春の花にかこまれてあるのを見た。 ポーラ・・・ 宮本百合子 「行為の価値」
・・・のは、みなの社会活動のために、本の勉強のために、医学の勉強のために、工場で働いているものも技術家になることができるように、小説家になることができるように、或は女の人ならばいつか自分が希望しているような音楽家になることができるように、人間らし・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ 一九三〇年、文化宣伝列車にのりこんで遠く農村へまで行ったのはコムソモールのウダールニクのほかに映画の撮影・映写隊、劇場からのウダールニク、ロシア・プロレタリア作家連盟からの若い作家達、音楽家と舞踊家、画家などであった。 芸術ウダー・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・[自注19]小野さんが急逝されたこと――音楽家関鑑子の良人、新協劇団演出家小野宮吉、数年来の腎臓結核によって死去した。[自注20]須山さん――須山計一。[自注21]大月さん――大月源二。[自注22]劇団葬――新協劇団・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・オペラや能と違って人形浄瑠璃においては音楽は純粋に音楽家が、動作は純粋に人形使いが引き受ける。そこで動作の心使いに煩わされることのない音楽家の音楽的表現が、直ちに動作する人形の言葉になる。人形は自ら口をきかないがゆえにかえって自ら言うよりも・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫