・・・何しろ主人役が音頭をとって、逐一白状に及ばない中は、席を立たせないと云うんだから、始末が悪い。そこで、僕は志村のペパミントの話をして、「これは私の親友に臂を食わせた女です。」――莫迦莫迦しいが、そう云った。主人役がもう年配でね。僕は始から、・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・これが東京音頭の流行となんらかの関係があるかどうかは不明であるが多少の関係があるかもしれない。 洋画の方に「測候所」があると、日本画の方にも「測候所」及び「海洋気象台」がある。ガードやガソリンスタンドなども両方にある。それだのに、洋画の・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・日本でも東京音頭やデッカンショがあると言えば、それはある。しかし上記のトーキーに出て来る二つの合唱だけに比べても実になんという貧しさであろう。 これはトーキー作者の問題であると同時に、国民全体の音楽的生活に関する問題でもある。 ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・それに蓄音機のとる音頭の伴奏の中には、どうも西洋楽器らしいものの音色が交じっているらしい。これも盆踊りの進化の一つの相である。そうして日本現代の一つの象徴でもある。 蓄音機がぱたりとやむと、踊り子たちの手持ちぶさたを紛らすためにだれかが・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・の怪奇な姿をこわごわ観察している偏屈な老学究の滑稽なる風貌が、さくら音頭の銀座から遠望した本職のジャーナリストの目にいかに映じるかは賢明なる読者の想像に任せるほかはないのである。 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・この挨拶が済むと、監督の尼さんが音頭をとって、子供の唱歌が始まり、それから正面の壇へ大きい子供がかわるがわる出て暗唱をすると、尼さんが心配して下から小さい声でいっしょに暗唱するのでした。それからワイナハトマンが袋をかついで出て来ておどけて笑・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・裁判は急転直下、有利に解決し、今度は乾分をやった方の男が音頭をとって経営しはじめたが、この男は満州へばかり度々出かけるし、濫費するので、遂に専務をやめざるを得なくなった。 ここへ別の一人物が登場して来る。某大銀行の持っているドックで働い・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・林房雄、中河与一氏などが音頭とりで、名称も懇話会よりは一層鮮明に、一傾向を宣言したものである。日に日に新たなる日本であるから、新日本主義も響きとして生新なようでもあるが、日本文学を新たな角度から把握しようとするその態度・方向においては、その・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫