・・・あとへ続くと、須弥壇も仏具も何もない。白布を蔽うた台に、経机を据えて、その上に黒塗の御廚子があった。 庫裡の炉の周囲は筵である。ここだけ畳を三畳ほどに、賽銭の箱が小さく据って、花瓶に雪を装った一束の卯の花が露を含んで清々しい。根じめとも・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・従って、この特徴と重写の技巧とを併用すれば、一粒の芥子種の中に須弥山を収めることなどは造作もないことである。巨人の掌上でもだえる佳姫や、徳利から出て来る仙人の映画などはかくして得られるのである。このようにカメラの距離の調節によって尺度の調節・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・しかし、人が見ればこれらの「須弥山」は一粒の芥子粒で隠蔽される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わらない人が多数いるような気がする。 自分は高等学校の時先生からたいへんにいいことを教わ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫