・・・そして仏蘭西から輸入されたと思われる精巧な頸飾りを、美しい金象眼のしてある青銅の箱から取出して、クララの頸に巻こうとした。上品で端麗な若い青年の肉体が近寄るに従って、クララは甘い苦痛を胸に感じた。青年が近寄るなと思うとクララはもう上気して軽・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・真珠の頸飾をゆったり掛けて、ラプンツェルがすっくと立ち上った時には、五人の侍女がそろって、深い溜息をもらしました。こんなに気高く美しい姫をいままで見た事も無し、また、これからも此の世で見る事は無いだろうと思いました。 ラプンツェルは、食・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・樺の木箱、蝋石細工、指環、頸飾、インク・スタンド。 成程これは余分なルーブルをポケットに入れている人間にとっては油断ならぬ空間的、時間的環境だ。少くともここに押しよせた連中は二十分の停車時間の間に、たった一人ののぼせた売子から箱かインク・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ そのことを知っている農民作家は、それ故、田舎娘の赤いエプロンと、ゆっくりした碧い瞳の動き、牛の鳴声、ポプラの若葉に光るガラス玉の頸飾ばかりを書いているのではない。村のコムソモールの生活も、トラクターも書く。しかし、年とった農民がそのト・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・困難し、打ち合わせなどするうちに、後の廊下で、一人の老人が丹念に人造真珠の頸飾や、古本や鼈甲細工等下手に見栄えなく並べ始めた。 一眠りしたら、大分元気が恢復した。福島屋の其部屋から、遙に港内が瞰下せた。塗り更えに碇泊して居るらしい大・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・写真であるから色はもとより分らないが、感じで赤いちりめんと思われる衿をきちんとかさねた友禅の日本服の胸へ、頸飾のようなものがかかっていた。おさげに結ばれている白い大きいリボンとその和服の襟元を飾っている西洋風の頸飾とは、茉莉という名前の字が・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫