・・・たとえば昔ある僧侶の学者が顕微鏡下で花粉をのぞいている間に注意して研究した微粒子の運動が、後日物質素量説の実証的根拠として一時盛んに研究されるようになった。またスイスの山間の中学校の先生が粗末な験電器の漏電を測っていたことが、少なくも間接に・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・あるいは顕微鏡のデッキグラスの厚さを測微計で測らせ、また後に光学の部で再びこれを試験用平面に重ね、単色光で照らして干渉の縞を示すも有益であろう。 液体静力学の実験例えば浮秤で水や固体の比重を測る時でも、毛管現象が如何に多大の影響を有する・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ 人間の肉眼が細かいものを判別しうる範囲はおおよそどれくらいかというとまず一ミリの数十分の一以上のものである、最強度な顕微鏡の力を借りてもその数千分の一以下に下げる事はできぬ。そしてその物から来る光の波長が一ミリの二千分の一ないし三千分・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・ しかし人間が超顕微鏡的の眼を有っていない以上は分子や電子を直接見る事が出来ない。それで多くの場合にはこのようなものを考えなくて却って事柄は簡単に明瞭に処理されるのである。もし量子的の考えを用いずしてすべての現象が矛盾なしに説明され得る・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・そうじゃない、みんな小さな小さな氷のかけらなんだよ、顕微鏡で見たらもういくらすきとおって尖っているか知れやしない。 そんな旅を何日も何日もつづけるんだ。 ずいぶん美しいこともあるし淋しいこともある。雲なんかほんとうに奇麗なことがある・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・粗末なバラック室、卓子二、一は顕微鏡を載せ一は客用、椅子二、爾薩待正 椅子に坐り心配そうに新聞を見て居る。立ってそわそわそこらを直したりする。「今日はあ。」「はぁい。」(ペンキ屋徒弟登場 看板を携爾薩・・・ 宮沢賢治 「植物医師」
・・・「いいえ、まるでちらばってますよ、それに研究室兼用ですからね、あっちの隅には顕微鏡こっちにはロンドンタイムス、大理石のシィザアがころがったりまるっきりごったごたです。」「まあ、立派だわねえ、ほんとうに立派だわ。」 ふんと狐の謙遜・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
普通中学校などに備え付けてある顕微鏡は、拡大度が六百倍乃至八百倍ぐらいまでですから、蝶の翅の鱗片や馬鈴薯の澱粉粒などは実にはっきり見えますが、割合に小さな細菌などはよくわかりません。千倍ぐらいになりますと、下のレンズの直径が・・・ 宮沢賢治 「手紙 三」
・・・ Dのリアリズム 自然主義とのちがい○顕微鏡の力と予言者の視力とをかね備えた 彼の幻想家的な知力にとむリアリズム、p.202○一切を彼は不思議に内部から認識する ゾラとの著しき対比 フラン・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・古い顕微鏡がある。自然学の趣味もあるという事が分かる。家具は、部屋の隅に煖炉が一つ据えてあって、その側に寝台があるばかりである。「心持の好さそうな住まいだね。」「ええ。」「冬になってからは、誰が煮炊をするのだね。」「わたしが・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫