・・・雨も風も容易に止まなかった。風速十三米と覚しき烈風が雨を吹き上げていた。家の前の池は無気味な赤さに鳥肌立っていた。だんだんに夜が明けて来ると、雨の白さが痛々しく見えて、私はS達の雨中の行軍を想いやった。 朝、風に吹き飛ばされそうになりな・・・ 織田作之助 「面会」
・・・しかし実際の事がらは決してこのように簡単ではなくて、人々の感覚は気温と共存する湿度、気圧風速日照等によるのみならず、人々のその瞬間以前におけるありとあらゆる物理的生理的心理的経験の総合された無限に多元的な複合の無限な変化によって、無限に多様・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・そこで今度は飛行機翼の模型を作って風洞で風を送って試験してみたところがある風速以上になると、補助翼をぶらぶらにした機翼はひどい羽ばたき振動を起こして、そのために支柱がくの字形に曲げられることがわかった。ところが、前述の現品調査の結果でもまさ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ もっとも、地上数メートルの間では風速は地面から上へと急激に増すから、電線の高さでは人間の感ずるよりはいくらか強い気流があるには相違ない。 谷あいの土地であるから地形により数町はなれると風向がよほどちがう場合が多い。そういう場合に、・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・なかんずく本邦学者の多年の熱心な研究のおかげで颱風の構造に関する知識、例えば颱風圏内における気圧、気温、風速、降雨等の空間的時間的分布等についてはなかなか詳しく調べ上げられているのであるが、肝心の颱風の成因についてはまだ何らの定説がないくら・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・もっとも、送電線にしても工学者の計算によって相当な風圧を考慮し若干の安全係数をかけて設計してあるはずであるが、変化のはげしい風圧を静力学的に考え、しかもロビンソン風速計で測った平均風速だけを目安にして勘定したりするようなアカデミックな方法に・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・旋風内の最高風速はよくはわからないが毎秒七八十メートルを越える事も珍しくはないらしい。弾丸の速度に比べれば問題にならぬが、おもちゃの弓で射た矢よりは速いかもしれない。数年前アメリカの気象学雑誌に出ていた一例によると、麦わらの茎が・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・これは理論上からも予期される事であり、またたとえば実験室において油をしみ込ませた石綿板の一点に放火して、電扇の風であおぐという実験をやってみてもわかることである。風速の強いときほど概してこの扇形の頂角が小さくなるのが普通で、極端な例として享・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
出典:青空文庫