・・・およそ最も高貴な蘭科植物の花などよりも更に遥かに高貴な相貌風格を具備した花である。 スカンボの花などもさっぱり見所のないもののように思っていたが、顕微鏡で見るとこれも実に堂々たる傑作品である。植物図鑑によると雄花と雌花と別になっているそ・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ 自分たちの少年時代にはもう文明の光にけおされてこのシバテンどもは人里から姿を隠してしまっていたが、しかし小学校生徒の仲間にはどこかこのシバテンの風格を備えた自然児の悪太郎はたくさんにいて、校庭や道ばたの草原などでよく相撲をとっていた。・・・ 寺田寅彦 「相撲」
仏蘭西現代の詩壇に最も幽暗典雅の風格を示す彼の「夢と影との詩人」アンリイ・ド・レニエエは、近世的都市の喧騒から逃れて路易大王が覇業の跡なるヴェルサイユの旧苑にさまよい、『噴水の都』La Cit des Eaux と題する一巻の詩集を著・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・これらの人々のような立場になったとき、こういう感懐を書くのは日本の伝統的風格であるという意見もあろう。そういう見解にたっていうならば、またおのずからつぎの事実が理解されてくる。こんにち、色紙の辞句にあらわれたような観念的でまた独善的な、いわ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・本質的には世故にたけた、十分妥協性をもったものなのだが、それを語る語りかたの独特に意識ある態度のために風格が発生し、その確信をもって押してゆく雰囲気の魅惑に大作家らしい趣、生活力が具わっているのではないのだろうかと考えたのであった。そして、・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・明治がその帷をかかげた女性の新しい成長への希望と、更にそれよりも深い都会の伝統が長谷川さんの血に流れ合わされていて、そこには独特の美しさと独特の矛盾をも醸し出し、積極な明治女性の勝気な俤は一種の風格をなして長谷川さんの御一生を貫いています。・・・ 宮本百合子 「積極な一生」
・・・ 正宗白鳥は自然主義時代からの作家として今日も評論に小説に活動して一種の大御所のような風格をもった存在となっているのであるが「ひかげの花」について菊池寛の見解に反対した意見の中には、その矛盾においてなかなか教えるところがある。 菊池・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 二三年経って或る会で落ち合った時、芥川さんには先よりずっと芥川的風格とでも云うべきものが著しく感じられました。先より話し易い心持で、探偵小説のことや、アメリカの学校のことなど喋った。着物でも夏であったが、黄麻の無地で、髪や容貌と似・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・日本でいう大作家の風格というものの内容は、古い文人時代の内容から、社会性においてそう大して新しくなっていると思われないのである。あのような文学的発足をした谷崎氏にあってそうであるとすれば、その他の日本の代表的ブルジョア作家が、はたしてどの程・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・由来、犬を飼って愛すようなものは幾分哲人の風格をおび、たとえばモーリス・メーテルリンクでも、すばらしい犬の物語を書いているように云々……と。 なるほど、川端康成は老成の筆ぶりで「わが犬の記」を書き、綿々たる霊の讚歌「抒情歌」を書き、決し・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫