・・・学生を未来の担い手として愛し感じている風潮であるか、それとも、学生は未成人であるという面を強調して観られてゆくかということでは、人生の光彩が大分違って来る。 たとえば、福沢諭吉の時代、学生というものはまぎれもなく未来の担い手としての理解・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・ 文化の実質はそういう人間らしさに立っているものであるにかかわらず、或る時代の風潮としては、文化の欲求や文化の蓄積された成長の段階がその時代の様々の動きを批評し判断する当然の作用を持っていることをよろこばず、自分の頭を自分の拳固で殴りつ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・畢竟バルザックは当時一風潮としてきざしはじめた人生批判なき市井生活の風俗小説の傾向によって読まれたにすぎず、ドストイェフスキーは不幸な再登場によって文学そのものの発展を混乱させている心理主義の趣好者を満足させたに過ぎなかった。 この期間・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・学校は、今の社会の風潮が浮薄であるということだけを強調して、その社会的根源を究明しようとする力は持たず、表面的にそのような世相を反撥して地味な制服を着ろとか、家事を見習えとか云い、仏英和女学校などでは女学生のスカートの長さが規定どおりか否か・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・テラス、ロマンス類が、もとの軍情報部に働いていた人をやとい入れて、戦時秘史だの反民主的な雰囲気を匂わせはじめると、その風潮は無差別にぱっとひろがって二・二六事件記事の合理化された更生から文学にまで波及し「軍艦大和」のように問題となる作品をう・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・ それともう一つは、各方面に日本的なものの見直しがあって、そこには日本の美を真に見直そうとする愛の目醒めと同時に、皮相の風潮としてのそういうものもある。そして、そのことでは、面白いことに丁度外国人が日本の美というと古典しかわからないよう・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・同時に、いまの日本に急速にひろがりつつある不健全な時代錯誤、特権生活への架空な憧れと嫉妬のまじりあったような風潮も、青春の敏感な自意識をむしばみつつある。卑俗な風俗小説のほとんどすべてが、読者の好奇をそそるために、闇の世界とえせの貴族趣味と・・・ 宮本百合子 「日本の青春」
・・・などが好評を博したことによって、もし疾病、不具などだけを階級的な見地から切り離して文学に描く風潮が生じるようなことがあれば、警戒されなければならないであろう。私は、この作者の次の作品を、興味をもって待とうと思う。〔一九三四年十月〕・・・ 宮本百合子 「入選小説「毒」について」
・・・俗書が段々科学的の書に接近して来る風潮を論ずる。とうとう私はランプの附くまでいて帰った。 私は借家に帰ると、古袷を一枚女中に持たせて、F君の所へ遣った。五十日分の宿料を払って、会話辞書を買っては、君の貰った月給は皆無くなって、煙草もやた・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・しかしすでに当時の有力な人々がかくのごとき感動をうけた以上はそれが時代の風潮となるには、何の困難もない。暗示にかかりやすい、盲目的な民衆は直ちに彼らのあとについて来る。 私は偶像礼拝者の歓喜をさらに高調に達せしめる要素として、読経お・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫