・・・彼等が復讐の挙を果して以来、江戸中に仇討が流行した所で、それはもとより彼の良心と風馬牛なのが当然である。しかし、それにも関らず、彼の心からは、今までの春の温もりが、幾分か減却したような感じがあった。 事実を云えば、その時の彼は、単に自分・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・ 彼らは民衆を基礎として最後の革命を起こしたと称しているけれども、ロシアにおける民衆の大多数なる農民は、その恩恵から除外され、もしくはその恩恵に対して風馬牛であるか、敵意を持ってさえいるように報告されている。真個の第四階級から発しない思・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・そのまま引きさがって、勝治に向い、チベットは諦めて、せめて満洲の医学校、くらいのところで堪忍してくれぬか、といまは必死の説服に努めてみたが、勝治は風馬牛である。ふんと笑って、満洲なら、クラスの相馬君も、それから辰ちゃんだって行くと言ってた、・・・ 太宰治 「花火」
・・・矛盾な乱雑な空虚にして安っぽいいわゆる新時代の世態が、周囲の過渡層の底からしだいしだいに浮き上って、自分をその中心に陥落せしめねばやまぬ勢を得つつ進むのを、日ごと眼前に目撃しながら、それを別世界に起る風馬牛の現象のごとくよそに見て、極めて落・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
出典:青空文庫