・・・鞍壺に延び上ったるシーワルドは体をおろすと等しく馬を向け直して一散に城門の方へ飛ばす。「続け、続け」とウィリアムを呼ぶ。「赤か、白か」とウィリアムは叫ぶ。「阿呆、丘へ飛ばすより壕の中へ飛ばせ」とシーワルドはひたすらに城門の方へ飛ばす。港の入・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ところがガスがいよいよ最後の岩の皮をはね飛ばすまでには、そんな塊を百も二百も、じぶんのからだの中にとらなければならない。」 大博士はしばらく考えていましたが、「そうだ、僕はこれで失敬しよう。」と言って小屋を出て、いつかひらりと船に乗・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・ひゅうひゅうひゅう、ひゅひゅう、降らすんだよ、飛ばすんだよ、なにをぐずぐずしているの。こんなに急がしいのにさ。ひゅう、ひゅう、向うからさえわざと三人連れてきたじゃないか。さあ、降らすんだよ。ひゅう。」あやしい声がきこえてきました。 雪童・・・ 宮沢賢治 「水仙月の四日」
・・・砕いちまえ、砕いちまえ、はね飛ばすんだ。はね飛ばすんだよ。火をどしゃどしゃ噴くんだ。熔岩の用意っ。熔岩。早く。畜生。いつまでぐずぐずしてるんだ。熔岩、用意っ。もう二百万年たってるぞ。灰を降らせろ、灰を降らせろ。なぜ早く支度をしないか。」・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 転ぶまい、車にぶつかるまい、帽子を飛ばすまい、栄蔵の体全体の注意は、四肢に分たれて、何を考える余裕もなく、只歩くと云う事ばかりを専心にして居た。 肩や帽子に、白く砂をためて家に帰りつくと、手の切れる様な水で、パシャパシャと顔や手足・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫