・・・今から考えると、ようこそ中途半端で柄にもない飛び上がり方をしないで済んだと思う。あのころには僕にはどこかに無理があった。あのころといわずつい昨今まで僕には自分で自分を鞭つような不自然さがあった。しかし今はもうそんなものだけはなくなった。僕の・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 路地口の石壇を飛上り、雲の峰が立った空へ、桟橋のような、妻恋坂の土に突立った、この時ばかり、なぜか超然として――博徒なかまの小僧でない。――ひとり気が昂ると一所に、足をなぐように、腰をついて倒れました。」 天地震動、瓦落ち、石・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ のぶ子は、青い花に、鼻をつけて、その香気をかいでいましたが、ふいに、飛び上がりました。「わたし、お姉さんを思い出してよ……。」こう叫んでお母さまのそばへ駆けてゆきました。「わたし、あの、青い花の香りをかいで、お姉さんを思い出し・・・ 小川未明 「青い花の香り」
・・・といって、少女は飛び上がりました。天国から、下界へきてはや三年の月日がたったのであります。その間にいろいろの人間の生活に触れてみました。しかし、いまやふるさとに帰るときがきたのであります。 町の人々は、不思議な景色が見えなくなると、家の・・・ 小川未明 「海からきた使い」
・・・そして、ついに、うす暗い貨車の中へ飛び上がりました。「汽車の出るまで、あのすみにしゃがんでいなさい。」と、くまはいいました。鶏は、くまのいうままにしました。だれも、鶏の貨車に入ったことを気づくものがありませんでした。そのうちに笛がひびい・・・ 小川未明 「汽車の中のくまと鶏」
・・・と、良ちゃんは手をたたいて飛び上がりました。「みみずを取りにゆくのだから、これを持っておいで。」と、英ちゃんは、いいました。 小さな良ちゃんは、片手に紅茶の空きかんを持ち、片手に手シャベルを握って、兄さんのお供をしたのです。「ま・・・ 小川未明 「小さな弟、良ちゃん」
・・・Aepfel Suchen im Wasser というのは、水おけに浮いているりんごを口でくわえる芸当、Wurst Schnappen は頭上につるした腸詰めへ飛び上がり飛び上がりして食いつく遊戯である。将校が一々号令をかけているのが滑稽の・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
出典:青空文庫