・・・ 運転手に虐待されても相変らず働いていたのは品子をものにしたという勝利感からであったが、ある夜更け客を送って飛田遊廓の××楼まで行くと、運転手は、「どや、遊んで行こうか。ここは飛田一の家やぜ」 どうせ朝まで客は拾えないし、それに・・・ 織田作之助 「雨」
・・・彼女はふだんは新世界や飛田の盛り場で乞食三味線をひいており、いわばルンペン同様の暮しをしているのだが、ルンペンから「お座敷」の掛った時はさすがにバサバサの頭を水で撫で付け、襟首を白く塗り、ボロ三味線の胴を風呂敷で包んで、雨の日など殆んど骨ば・・・ 織田作之助 「世相」
・・・と言うたのをこれ倖いに、飛田大門前通りの路地裏にあるそこの二階を借りることになった。柳吉は相変らず浄瑠璃の稽古に出掛けたり、近所にある赤暖簾の五銭喫茶店で何時間も時間をつぶしたりして他愛なかった。蝶子は口が掛れば雨の日でも雪の日でも働かいで・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
出典:青空文庫