・・・何百人かの被告は、ペシャンコになる。食糧がそれだけ助かる。警察の手がいらなくなる。それで世の中が平和になる。安穏になる。うまいもんだ。 チベットには、月を追っかけて、断崖から落っこって死んだ人間がある。ということを聞いた。 日本では・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・十人の人の一年の食糧が毎年とれます。牛ならどうです。一年の間に肥る分左様百六十キログラムの牛肉で十人の人が一年生きていられますか。一人一日五十グラムですよ。親指三本の大さですよ。腹が空りはしませんか。 よくおわかりにならないようですがも・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 本誌の、この号には食糧問題、労働問題、法律上の諸問題、生活再建の市民的技術上の問題、再婚問題、産児制限の諸問題が、特輯として扱われている。 これらの題目のうちで、過去二十年間、日本の婦人雑誌が扱ったことのないというトピックが、只の・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 秋田、山形辺は、食糧危機がひどくなってから、主食買い出しの全国的基地となって来ている。私の乗っている汽車にも、きっとそういう用事で出て来ている各地の旅客がいただろう。その人々は、この一望果てない青田を見て、そこに白く光った白米の粒々を・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・一家の中の細々としたさまざまの用事は食糧事情の逼迫している今日、女を家庭の内部で寸暇あらせないと共に、家庭の外へも忙しく動かせる。どんな婦人でも、今の乗物には身軽こそがのぞましい。由紀子という人が、二人の子供を前とうしろにかかえて外出したと・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・公務員法をむりやりとおしてはじめからきらわれている吉田内閣は新しい選挙をひかえて、いくらかでも人気をとりかえすために食糧問題や転入自由の景品をだしました。「住宅問題の解決や賃金問題の解決はぬきにして」きたるべき選挙に今日の政府は勝算をもって・・・ 宮本百合子 「泉山問題について」
・・・ドイツと日本の食糧事情は最悪であると、警報がかかげられている。その記事の傍らに見るものは、連日連夜にわたる幣原、三土、楢橋の政権居据りのための右往左往と、それに対する現内閣退陣要求の輿論の刻々の高まり、さらにその国民の輿論に対して、楢橋書記・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・こんにちの日本のすべての事情は、人間らしく生きるということに必要ないろいろの条件を欠いている。食糧の問題、住宅の問題、交通の問題そのほか。 いまの日本に特別つよくあらわれているそれらの困難については誰しも十分知っているけれども、勤労する・・・ 宮本百合子 「いのちの使われかた」
・・・ 自由という名は耳と心に快くひびくが、食糧事情の現実は、わたしどもの今日に、饑餓と大書してそびえ立っている。開放と不安との間に、橋の架けかたを知らされずに近代を通ってきた正直な日本の幾千万の人々が、ひしめいているのである。 文学が、・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ まず第一に食糧の問題があります。男でも女でも、年寄でも子供でもみな今日は食べる物が足りません。おなかの空くことは、昔は母親が心配して何とか食べさせて行けました。今日はお母さんだけでは間に合わないでお父さんが動いています。お父さんが動い・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
出典:青空文庫