・・・私のよく行ったところは小さい映画館だもので、下の食糧品店は夜になるとすっかり暗く閉っている。わきの方にチラチラとイルミネーションのついた看板が淋しく一二枚出ている狭い入口があって、そこから階段をあがって行くと、二階が映画館になっているのであ・・・ 宮本百合子 「映画」
・・・ 食糧事情は、お互さまにひどいことになって来ました。七時半ごろという今の時間は、どこの御家庭でも、たのしかるべき朝飯の時刻です。一家揃って元気よく、一日の活動に出発する第一の食事をなさるその時間に、ラジオは耳から、心の糧を送ろうとし・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・今日、食糧事情はそこまで逼迫しているという人もあろうが、難破して漂流している孤舟の中に生じた事件と仮定してさえも、私ども正常の人間性はその残酷さを許し得ないのである。ましてやこの事件は、単純きわまる残忍さが徹底している点で言語道断な特殊な一・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・ 雨があがった桜並木の食糧品屋へ行って見た。戸がたっている。中で起きている気勢なので声をかけ、開けて貰った。鑵づめはなく、「これがよろしいでしょう、お湯を煮たててお入れになれば直です、イタリーのですから品はいい品です。フランスのは太・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・を観にきていた幾組かの恋人たちの、今日の悩みと求めている解決とは、親の反対に駈け落ちしたにしても、その先の先までつけまわす食糧危機を、二人のきまった月給のうちでどう打開するか。なにより先に落付く住居はどうして見いだせるか。さらに、百万人の失・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・また、家庭の主婦の生活、台所の食糧の問題は、直接外で働く男の生活問題と結びついているのです。 今日の社会の問題と申しますのは、私はこういう立場だから、こういうことは知らなくてもいい、私はなんとか楽にやって行けるから、そんなことはどうでも・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・ところで、お気持の合った方がお集まりになって、むずかしい問題もむずかしくない問題も、日常的な問題も、お魚をどうするかということから、お米の配給が遅れて困るがどうするかという話から始めて、いろいろな今の食糧問題の解決を試みている団体がございま・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・たとえ、イワシにしろ、今日、現実に、私たちの食膳へ配給されるようになった食糧の人民管理の方法は、共産党が生活問題解決の一歩として、既に実行で示している一つの例です。 共産党という名がきらいだわ、という婦人もどっさりあります。ほかの意見に・・・ 宮本百合子 「幸福のために」
・・・闘争基金千円を募集し食糧を一ヵ月分車輌の中に運び込んでいること。婦人従業員をふくめた自衛団が組織され、全員十六歳から二十五歳という青年だがその統制が整然としていること。職場の特殊性をすべて争議団側に有利なように科学的に利用している点とともに・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・法律によって男の親が食糧品か金で子供を扶助する義務をもっている。その親もない場合。 子供は、父と母とのどういう関係によって生れようともターニャ一人の子ではない。生れた以上ソヴェト社会の嫡出子だ。いざという場合はソヴェト国家がその陣営に加・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫