・・・突然八百屋が飼い主の家の女中といっしょに連れて来たそうである。台所へ来たのを奥の間へ連れて行くとすぐまた台所へかけて行って、連れて来た人のあとを追うので、しばらく紐でつないでおこうかと言っていたが、連れて来た人がそれはかわいそうだからどうか・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・それは赤が死んだ日に例の犬殺しが隣の村で赤犬を殺して其飼主と村民の為に夥しくさいなまれて、再び此地に足踏みせぬという誓約のもとに放たれたということを聞いたからである。彼は其夜も眠らなかった。一剋である外に欠点はない彼は正直で勤勉でそうして平・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・その一面には三十一日来四十時間のとりしらべののち五年、七年、十年と重労働刑を判決申しわたされた八人の日本の若ものたちの姿がのせられていた。飼主の命令のままに馴らされ、使役される犬猫から牛馬のたぐいは人道的なひとびとによって組織されている愛護・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・ 初めての時の結果が大変悪かった上に、今度のが予想外によかったので、無邪気な飼主は宇頂天になって、何の餌をやるといいの、斯う云う天気の時はどうしてやらなければいけないのとさわいで居たが、どうしても鶏舎が狭すぎていけないからと云う事になっ・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫