・・・始めから先方に腹を立てさすつもりで談判をするなどというのは、馬鹿馬鹿しいくらい私にはいやな気持ちです」 彼は思い切ってここまで突っ込んだ。「お前はいやな気持ちか」「いやな気持ちです」「俺しはいい気持ちだ」 父は見下だすよ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・とも子 知れたこってすわ、馬鹿馬鹿しい。沢本 じゃやはりドモ又がいったように、君はどこかに岸をかえるんだな。とも子 さあねえ。そうするよりしかたがないわね。私はいったい画伯とか先生とかのくっ付いた画かきが大きらいなんだけれども・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・やがて寝に就いてからも、「何だ馬鹿馬鹿しい、十五かそこらの小僧の癖に、女のことなどばかりくよくよ考えて……そうだそうだ、明朝は早速学校へ行こう。民子は可哀相だけれど……もう考えまい、考えたって仕方がない、学校学校……」 独口ききつつ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・吉弥こそそんな――馬鹿馬鹿しい手段だが――熱のある情けにも感じ得ない無神経者――不実者――。 こういうことを考えながら、僕もまたその無神経者――不実者――を追って、里見亭の前へ来た。いつも不景気な家だが、相変らずひッそりしている。いそう・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ソンナものを写すのは馬鹿馬鹿しい、近日丸善から出版されるというと、そうか、イイ事を聞いた、無駄骨折をせずとも済んだといった。 その時、そんなものを写してドウすると訊くと、「何かの時には役に立つさ、」といった。「何でも書物は一生の中に一度・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・この高い油を使って本を読むなどということはまことに馬鹿馬鹿しいことだといって読ませぬ。そうすると、黙っていて伯父さんの油を使っては悪いということを聞きましたから、「それでは私は私の油のできるまでは本を読まぬ」という決心をした。それでどうした・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・「なあに、馬鹿馬鹿しいのさ。お光さんのことをどこの芸者だって……」「まあ、厭よ……」「芸者なものか、よその歴としたお上さんだと言っても、どうしても承知しやがらねえで、俺が隠してるから俥屋に聞いて見るって、そう言ってるところへヒョ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・そしてそれをいつまで持ち耐えなければならないかということはまったく猫次第であり、いつ起きるかしれない母親次第だと思うと、どうしてもそんな馬鹿馬鹿しい辛抱はしきれない気がするのだった。しかし母親を起こすことを考えると、こんな感情を抑えておそら・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・言って聞かない、いろいろ言い聞かしたがどうしても承知しない、それだからあなたを欺して連れて来たのだ、どうか不憫な女だと思って可愛がってやってくれ、私から手を突いて頼むから、とまずこういう次第なのです。馬鹿馬鹿しい話だとお笑いもございましょう・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 兵卒は、誰れの手先に使われているか、何故こんな馬鹿馬鹿しいことをしなければならないか、そんなことは、思い出す余裕なしに遮二無二に、相手を突き殺したり殺されたりするのだ。彼等は殺気立ち、無鉄砲になり、無い力まで出して、自分達に勝味が出来・・・ 黒島伝治 「戦争について」
出典:青空文庫