・・・ 二 間牒 明治三十八年三月五日の午前、当時全勝集に駐屯していた、A騎兵旅団の参謀は、薄暗い司令部の一室に、二人の支那人を取り調べて居た。彼等は間牒の嫌疑のため、臨時この旅団に加わっていた、第×聯隊の歩哨の一人に、今・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・兵卒達は、パルチザンの出没や、鉄橋の破壊や、駐屯部隊の移動など、次から次へその注意を奪われて、老人のことは、間もなく忘れてしまった。 丘の病院からは、谷間の白樺と、小山になった穴のあとが眺められた。小川が静かに流れていた。栗島は、時々、・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 彼等は、愉快な、幸福な気分を味わいながら駐屯地へ向って引き上げて行った。 大隊長は、司令部へ騎馬伝令を発して、ユフカに於けるパルチザンを残さず殲滅せしめたと報告した。彼は、部下よりも、もっと精気に満ちた幸福を感じていた。背後の村に・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・聯隊が駐屯している町も、病院がある丘も、後方の山にさえぎられて見えなかった。山の頂上を暫らく行くと、又、次の谷間へ下るようになっていた。谷間には沼があった。それが氷でもれ上っていた。沼の向う側には雪に埋れて二三の民屋が見えた。 二人は、・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ 戦争がはじまって暫くすると、そこへ軍隊が駐屯して来た。静かな欅の梢の間に、ラッパの音が響き、銃剣が閃くようになった。学校の女生徒たちは、学徒動員で働きに出て行かなければならないが、寄宿舎はやはり営まれていて、皆がそこに暮していた。・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・パレスタインに英国軍用機駐屯所を持つことは近東及印度に対していい押えだ。ルッテンベルグ協約で英国はヨルダン水力電気利権を得た。死海協約でおよそ八十億ポンドの塩を英国は死海から儲けるであろう。パレスタインで農業をしていた先住アラビア人は多く土・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫