・・・私は気弱く狼狽して、いや何処ということもないんだけど、君たちも、行かないかね、と心にも無い勧誘がふいと口から辷り出て、それからは騎虎の勢で、僕にね、五十円あるんだ、故郷の姉から貰ったのさ、これから、みんなで旅行に出ようよ、なに、仕度なんか要・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・「言ってみ給え。」騎虎の勢である。「言ってみたって、どうにもならんけど、このごろ僕は、目茶苦茶なんだよ。中学だけは、家のお金で卒業できたのだけれど、あとが続かなかったんだ。貧乏なんだよ。僕は数学を、もっと勉強したかったから、父に無断・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・沼を一まわりして来るぜ。」騎虎の勢いである。「僕も乗ろう。」動きはじめたボートに、ひらりと父が飛び乗った。「光栄です。」と勝治が言って、ピチャとオールで水面をたたいた。すっとボートが岸をはなれた。また、ピチャとオールの音。舟はするす・・・ 太宰治 「花火」
・・・ここまで来ると騎虎の勢いに乗じて、結局日本のコトをついでにこれと同列に並べてみたくなるのである。 竪琴の最古のものはテーベの墓の壁画に描かれたものだそうで恐ろしく古いものらしい。アッシリアのものはわずかに極東日本にその遠い子孫を残すに過・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
出典:青空文庫