・・・最後の荷物を運ぶのについてったら、駅の正面に驢馬みたいな満州馬にひかせた支那人の荷馬車が止ってて、我々の荷物はその上につまれている。 支那人の馬車ひきは珍しく、三年前通ったハルビンの景色を思い出させた。三年の間に支那も変った。支那は今百・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・見ると、白い山羊と向い合って、黒い耳長驢馬が一匹立って居る。白山羊と黒驢馬とは月の光に生れて偶然オレゴン杉のかげで出会った。山羊は首をあげて、縁側に居る令子に後を向け、何か頻りに黒驢馬に向って云って居る。驢馬は一方の耳をぴんと反らせ頭を下げ・・・ 宮本百合子 「黒い驢馬と白い山羊」
・・・耳の長い驢馬がふりわけに籠をつけて、小さい蹄に石ころ道を踏んで行く。バクーの市街の古い部分は五、六世紀頃から存在しているのである。 大通りを行きつめたら、自然とカスピ海に向う、立派な遊歩道へ出た。ペルシア行汽船の埠頭などがあり、暑いとこ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 森の木の枝に自慢の角を引っかけて玉にうたれた鹿だの、孔雀の羽根で恥をかいた可哀そうな鳥だの、片目をたのみすぎた罪のない驢馬だのねえ。B まあそんなに? 私にはそんな事考えられないわ。A そんな旅はいつまで続くの。 来年・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ 私、いつも熱中するとこうなんですの、そしては宅に驢馬っていわれるんですの――ホッホホホ」 何故この夫人ばかりは、ナデージュタ・ペトローヴナと呼ばれず、マダム・ブーキンと云うのか誰も理由を知らなかった。 彼女は名刺にマダム・ブーキン・・・ 宮本百合子 「街」
・・・「それは好いが、先生自分で鞭を持って、ひゅあひゅあしょあしょあとかなんとか云って、ぬかるみ道を前進しようとしたところが、騾馬やら、驢馬やら、ちっぽけな牛やらが、ちっとも言うことを聞かないで、綱がこんがらかって、高粱の切株だらけの畑中に立往生・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫