・・・それで、トーキーの場合にも一時スクリーンを暗くして音だけを聞かせることによって効果を高めるということも上手にやればおもしろいに相違ない。 目を閉じるといろいろの「光の舞踊」が見える。これはある程度までは生理的効果でだれにでも共通なもので・・・ 寺田寅彦 「耳と目」
・・・私はドイツでも、堂々としたジーメンスの工場を見たが、その工場の内に働く者の幸福を高めるための技術を養う工場学校があり、しかも十八歳までは六時間労働、十六歳以下は四時間と、ちゃんと法律によって定め、その賃銀の払われる労働時間のうちに教育のため・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・それだのに、こういう独創性や能力は社会的に日本の生産に現れた婦人の地位を高める条件としては、ちっとも蓄積されていない。 例えば今日ではもう昔の物語になってしまった琉球のあの美しい絣織物にしても染めの技術にしても今はみんな壊れてしまってな・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・純文学の仕事をする作家が新聞小説をもかくことで、新聞小説の在来の文学的制約をたち切り、その質を高める方向へ作用することは至難であって、今までのところ、いつしか純文学の水準をそちらの方へ適応させて行っているのではないだろうか。 この事実の・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
・・・その座談会の記事への感想として、一人の女のひとが、男の理解を高めるということも大切ではあるが、日常には随分女自身無責任な生きかたをしていると思う点がある。そういうところも女として自省されるべきと思うという文章があって、座談会に出ていた一人で・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 情感をゆたかに高めるというとき、それがどんなに多くの多様な光りを智慧からうけるものであるか、理智と感情とは対立したものでなくて、流水相光を交し、行動とからんで一体として生彩を放つものであるかということを、私たちは感情世界の新しい息づき・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・間にたって利益を吸いとる者のない生産のための生産をやっているのだから、根本は一般勤労者の生活水準を高めるのが目的だ。産業別の生産組合は、或る一つの企業をやるとき、必ず天から勤労者福祉資金何割というものを予算に加えて仕事をはじめる。 五箇・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ソヴェト同盟の工場には工場学校があって、そこでは本当にプロレタリアの技術を高めるために勉強がされている。十六歳までの青年は六時間以上の労働はすることなく、しかもそのうち三時間は工場学校で勉強して、六時間分の給料を貰うのだそうです。勿論女も男・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・対手を高める力として作用する隠されたこわさがある。稲子さんは、例えば私にしろ、私たちとしての立場から見て妙なことでもすれば、のほほんと馴れ合ってはしまわない。自分自身に対してもそのことは同じであると思わせるものを、日頃の生活態度に蔵している・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・境遇の事情で、いわゆる仕事として技術を身につけているひとも、これまでのように、私は職業にしてはいないのだからと、離れた心持でなく、やはりその仕事の実質で、女全体の社会にとい得る価値を高めるように押してゆくべきでしょう。女の職業と仕事との分裂・・・ 宮本百合子 「現実の道」
出典:青空文庫