・・・且又利害を超越した情熱に富んでいることは常に政治家よりも高尚である。 事実 しかし紛紛たる事実の知識は常に民衆の愛するものである。彼等の最も知りたいのは愛とは何かと言うことではない。クリストは私生児かどうかと言うことであ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ 内端に、品よく、高尚と云おう。 前挿、中挿、鼈甲の照りの美しい、華奢な姿に重そうなその櫛笄に対しても、のん気に婀娜だなどと云ってはなるまい。 四 一目見ても知れる、濃い紫の紋着で、白襟、緋の長襦袢。水の・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・……もの案じに声も曇るよ、と思うと、その人は、たけだちよく、高尚に、すらりと立った。――この時、日月を外にして、その丘に、気高く立ったのは、その人ただ一人であった。草に縋って泣いた虫が、いまは堪らず蟋蟀のように飛出すと、するすると絹の音、颯・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・その生涯はいかにも高尚である、典雅である、純潔である。僕が家庭の面倒や、女の関係や、またそういうことに附随して来るさまざまの苦痛と疲労とを考えれば、いッそのこと、レオナドのように、独身で、高潔に通した方が幸福であったかと、何となく懐かしいよ・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・それは何であるかならば勇ましい高尚なる生涯であると思います。これが本当の遺物ではないかと思う。他の遺物は誰にも遺すことのできる遺物ではないと思います。しかして高尚なる勇ましい生涯とは何であるかというと、私がここで申すまでもなく、諸君もわれわ・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
古来例のない、非常な、この出来事には、左の通りの短い行掛りがある。 ロシアの医科大学の女学生が、ある晩の事、何の学科やらの、高尚な講義を聞いて、下宿へ帰って見ると、卓の上にこんな手紙があった。宛名も何も書いてない。「あなたの御関係・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ハートゥレイによれば道徳的情操は、他の高尚な諸感情とともに、感覚に伴う快、不快の念から連想作用によって発生したものである。彼は同情も、仁愛も利己的な快、不快の感から導き出した。初めは快、不快な結果を好悪する心から徳、不徳を好悪したのだが、広・・・ 倉田百三 「学生と教養」
一 女性と信仰 男子は傷をこしらえることで人間の文明に貢献するけれども、婦人はもっと高尚なことで、すなわち傷をくくることで社会の進歩に奉仕するといった有名な哲人がある。この人間の文化の傷を繃帯するということ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 骨董いじりは実にオツである、イキである、おもしろいに違いない、高尚に違いない、そして有意義に違いない、そして場合によっては個人のため社会のためになる事もあるに違いない。自分なぞも資産家でさえあればきっとすばらしい贋物や贋筆を買込で大ニ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・人間に分らないくらい高尚幽玄の論だから気を静めて聞玉えよ。よしカネ、まず我輩が宇宙を貫ぬく大真理を発見した履歴を話そうよ。僕がネ幼少の時にフト感じた事があるのサ。実にネ、大発明というものはつまらない所から起るもので、僕の大真理は道から出たの・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
出典:青空文庫