・・・N君からはまた浅間葡萄という高山植物にも紹介された。われわれの「葡萄」に比べると、やはり、きりっと引きしまった美しい姿をしている。強い紫外線と烈しい低温とに鍛練された高山植物にはどれを見ても小気味のよい緊張の姿がある。これに比べると低地の草・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・近頃流行る高山旅行などではなおさらである。案内人なしにいい加減な道を歩いていると道に迷うてとんでもない災難に会わなければならない。 案内人として権威の価値は明らかであるが、同時に案内人の弊害もある事は割合に考える人が少ない。 通りす・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・その中でもこの地方のやや高山がかった植物界は、南国の海べに近く生い立った自分にはみんな目新しいもののように思われるのであった。子供の時分に少しばかり植物の採集のまね事をして、さくようのようなものを数十葉こしらえてみたりしたことはあったが、そ・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・そういう次第であるから、わが国で、鈴木清太郎、藤原咲平、田口たぐちりゅうざぶろう、平田森三、西村源六郎、高山威雄諸氏の「割れ目の研究」、またこれに連関した辻二郎君の光弾性的研究や、黒田正夫君のリューダー線の研究、大越諄君の刃物の研究等は、い・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・氷河の向こう側はモーヴェ・パーという険路で、高山植物が山の間に花をつづり、ところどころに滝があります。ここから谷へおりる途中に、小さなタヴァンといったような家の前を通ったら、後ろから一人追っかけて来て、お前は日本人ではないかとききますから、・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・そうして当局者の好意で主要な高山における三角点の観測者の名前とその測量年度を表記したものを手にすることができた。しかし今ここでその表の一小部分でも載せることは紙面の制限上到底許されない。それでここではただ現在陸地測量部地形図の恩恵をこうむり・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・雪渓に高山植物を摘み、火口原の砂漠に矮草の標本を収めることも可能である。 同種の植物の分化の著しいことも相当なものである。夏休みに信州の高原に来て試みに植物図鑑などと引き合わせながら素人流に草花の世界をのぞいて見ても、形態がほとんど同じ・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・日常劇務に忙殺される社会人が、週末の休暇にすべてを忘却して高山に登る心の自由は風流である。営利に急なる財界の闘士が、早朝忘我の一時間を菊の手入れに費やすは一種の「さび」でないとは言われない。日常生活の拘束からわれわれの心を自由の境地に解放し・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・「こんなに貰わなくッていいよ。お湯だけなら。」「じゃ、こん度来る時まで預けて置こう。ここの家は何ていうんだ。」「高山ッていうの。」「町の名はやっぱり寺嶋町か。」「そう。七丁目だよ。一部に二部はみんな七丁目だよ。」「何・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・何の高山の林公抔と思っていた。 その中、洋行しないかということだったので、自分なんぞよりももっとどうかした人があるだろうから、そんな人を遣ったらよかろうと言うと、まアそんなに言わなくても行って見たら可いだろうとのことだったので、そんなら・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
出典:青空文庫