・・・まるでみなで鬼ごっこをするようにかけちがったりすりぬけたり葦の間を水に近く日がな三界遊びくらしましたが、その中一つの燕はおいしげった葦原の中の一本のやさしい形の葦とたいへんなかがよくって羽根がつかれると、そのなよなよとした茎先にとまってうれ・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・往来の上では、子供らが、鬼ごっこをして遊んでいました。三人の子供らは、いつしか飴チョコを箱から出して食べたり、そばを離れずについている、白犬のポチに投げてやったりしていました。その中に、まったく箱の中が空になると、一人は空箱を溝の中に捨てま・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
・・・ 夏の日の晩方には、村の子供らがおおぜい、この城跡に集まってきて石を投げたり鬼ごっこをしたり、また繩をまわしたりして遊んでいました。子供らは、はじめのうちは、おじいさんの弾くバイオリンの音を珍しいものに思って、みんなそのまわりに集まって・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・小さな白い雲、ややそれよりも大きい雲、ほんとうに大きな白い雲、いくつかの雲が鬼ごっこでもしているように、追いつ、追われつしていました。 旅人は、このとき、忘れていた幼友だちの名まえと、顔つきをはっきりと思い出したのでした。そればかりでな・・・ 小川未明 「曠野」
・・・じいさんは、いまから四十年も、五十年も前の少年の時分、戦争ごっこをしたり、鬼ごっこをしたりしたときの、自分の姿を思い出していました。 山へはいりかかった、赤い日が、今日の見収めにとおもって、半分顔を出して高原を照らすと、そこには、いつの・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・ やがて食い足った子供等は外へ出て、鬼ごっこをし始めた。長女は時々扉のガラスに顔をつけて父の様子を視に来た。そして彼の飲んでるのを見て安心して、また笑いながら兄と遊んでいた。 厭らしく化粧した踊り子がカチ/\と拍子木を鼓いて、その後・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・庭へは時々近辺の子供が鬼ごっこをしながら乱入して来ては飯焚の婆さんに叱られている。多く小さい男の子であるが、中にいつも十五、六の、赤ん坊を背負った女の子が交じっている。そしてその大きい目から何からよく死んだ妹に似ているので、あれは何処の娘か・・・ 寺田寅彦 「雪ちゃん」
・・・大人と鬼ごっこするのが一太はどんなに好きで面白かったろう。むんずとした手で捕まりそうになると、一太は本当にはっとし、目をつぶりそうにこわかった。こわいだけなお面白い。母親と歩いていると、そんなに面白い善どんさえ、いつものように言葉をかけては・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 二人の男の子と一人の女の子とが田端の汽車を見に、エナメル塗りのトランク型弁当箱をもって、誰だったか大人の女のひとにつれられて柵のところへ行った時代と、やっぱり大人の女と一緒ではあったが道灌山のなかで鬼ごっこなどした時代とは、同じでなかった・・・ 宮本百合子 「道灌山」
出典:青空文庫