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・・・ 午前六時何分かに、鳥栖で乗換る頃には霧雨であった。南風崎、大村、諫早、海岸に沿うて遽しくくぐる山腹から出ては海を眺めると、黒く濡れた磯の巖、藍がかった灰色に打ちよせる波、舫った舟の檣が幾本も細雨に揺れ乍ら林立して居る景色。版画的で、眼・・・
宮本百合子
「長崎の一瞥」
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・・・そこを立って来た夜半に、計らず聴いた雨の音故一きわすがすがしく、しめやかに感じたということもあろう。鳥栖で、午前六時、長崎線に乗換る時には、歩廊を歩いている横顔にしぶきを受ける程の霧雨であった。車室は、極めて空いている。一体、九州も、東海岸・・・
宮本百合子
「長崎の印象」