・・・ 東京附近の自動車道路の詳細な地図はないかと思ってこの間中探したが見付からなかった。鳥瞰図式の粗雑なものはあったが、図がはなはだしく歪められているので正確な距離や方角の見当がつかないし、またどのくらい信用出来るかも不明である。鉄道省で出・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・科学上の権威者と称せらるる者はなるべく広い方面にわたってこの境界線の鳥瞰図を持っている人である、そして各方面からこの境界を踏み出そうという人々に道しるべをするのである。しかしどこまでも信用の出来る案内者はあり得べからざるものである。如何に精・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・山崎洋服店の裁縫師でもなく、天賞堂の店員でもないわれわれが、銀座界隈の鳥瞰図を楽もうとすれば、この天下堂の梯子段を上るのが一番軽便な手段である。茲まで高く上って見ると、東京の市街も下にいて見るほどに汚らしくはない。十月頃の晴れた空の下に一望・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・時事漫画に久夫でも描きそうな野球試合鳥瞰図があると思うと、西洋の女がい、男がい、それぞれに文句が附いているのであった。「晴れて嬉しい新世帯」都々逸のような見だしの下に、新夫婦が睦じそうにさし向いになっている。やがて口論の場面が来、最後には奇・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・大家連が依然として芸者、舞妓、花、蛙などにとじこもっているに対し、題材として新しい方向を求め、例えば発電所・橋・市街鳥瞰図風の素材を扱った新人もあるが、結局それ等の題材は風景として理解されているに止っているし、日本画としての技術上からも、そ・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・まして確然とした世界観をもつプロレタリア作家が、遠く島国日本の客観情勢を展望し、中国の新興力を鳥瞰図的に把握し、しかもソヴェト同盟における大建設の地響きを足に感じながら目前に大危機を経験しつつあるドイツを見ているとしたら大小説を書きたくなら・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・『文芸』の「現在中国文学界鳥瞰図」「抗日作家とその作品」を読むと、地球の東半球の文学もいかに意義ふかい呻きの中にいるかが察せられる。鹿地氏の文章で、何故今日まで中国文学が特にその理論的な面、批評の面で全く薄弱であるかという理由を学ぶ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫