・・・一同はワヤ/\ガヤ/\して満室の空気を動揺し、半分黒焦げになったりポンプの水を被ったりした商品、歪げたり破れたりしたボール箱の一と山、半破れの椅子や腰掛、ブリキの湯沸し、セメント樽、煉瓦石、材木の端片、ビールの空壜、蜜柑の皮、紙屑、縄切れ、・・・ 内田魯庵 「灰燼十万巻」
・・・それよりはむしろ、半ば黒焦げになった一握りの麦粒のほうがはるかに強く人の心を遠い昔の恐ろしい現実に引き寄せるように思われた。 火山の名をつけた旗亭で昼飯を食った。卓上に出て来た葡萄酒の名もやはり同じ名であった。少しはなれた食卓にただ一人・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・今までは本堂に遮られて見えなかった裏手の墳墓が黒焦げになったまま立っている杉の枯木の間から一目に見通される。家康公の母君の墓もあれば、何とやらいう名高い上人の墓もある……と小さい時私は年寄から幾度となく語り聞かされた……それらの名高い尊い墳・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・わしとも少し強く握手すればまあ黒焦げだね。」 兵隊はやはりずんずん歩いて行きます。「ドッテテドッテテ、ドッテテド、 タールを塗れるなが靴の 歩はばは三百六十尺。」 恭一はすっかりこわくなって、歯ががちがち鳴りまし・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
出典:青空文庫